カノンリベンジ -1-
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「さみいなぁ・・・・」
俺がはく息が白い。さすが北陸だ。
公園の時計を見る。3時すぎ、か・・・・予定より48時間ほど遅れている。
「あいつ、時間にルーズとはいえ、限度があるぞ・・・」
今日で3日目だ。ちなみになぜ俺がここで待っているかというともうすでに
帰るべき家というのはなく、引き取り先がこの地なのだ。
じゅう・・・・熱い、すごく熱い、とてつもなく熱い。このままでは頬が焼けどすることは
目に見えている。俺がとるべき行動はひとつのはずだった。だが、恐怖でそれすらままならなかった。
「そんなに怖がることないじゃない。君と友達になりたいんだよ・・・」
がくがくがくがく・・・俺は勇気を振り絞り振り返りざまに拳を放つ。
「!!!!」
俺が放った拳撃は空を切った。そして、後ろを振り向くとベンチの前に平然と立っているいとこ・・・
「三日遅れだぞ。」
あくまで平静をたもって話し掛ける。
「あ・・・まだ二日ぐらいだと思ったよ。」
目の前の少女の発言に二日でもおせぇよ、と心の中で突っ込みをいれておく。
「はい、これ。」
缶コーヒーを受け取り、それを一気に飲み捨てる。だがさっき感じたのはなんだったんだろうか。
少なくとも俺のいとこに能力の使い手はいないはずだが・・・
俺はふに落ちないままいとこのあとにくっついていった。
察しの通り、俺はかつてゼロワンと呼ばれた男。
「ここが今日から俺が住む家か・・・」
2階立ての立派なつくり、その中に俺はかまわず入っていく。
「なぁ、なゆ・・ぐッ!」
突然口をふさがれ、息が詰まる。開放された俺は大きく息を吸って抗議しようとした、
が、その抗議よりも早く相手の口が開いていた。
「私のことはなゆなゆってよんでね。」
「なゆちゃんじゃなくて?」
コォォォォォ、あたりが少し寒くなった気がした。
俺は自分の割り当てられていた部屋へとすばやく逃げ込んだ。
「あの威圧感、眼光、すべて奴らにそっくりだ・・・」
以前戦ってきた強敵(とも)達と。
「強敵とかいてともと呼ぶ、冗談じゃないぜ・・・・」
俺はそのまま眠りについた。
オラオラオラオラオラオラオラ!
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!
「なんだこの目覚ましはぁ!?」
俺は寝袋から飛び起き、音の発信源をたどった。
URYYYYYYYYYYY!
「おい!なゆなゆ!おきてんだろ!止めろ!」
どんどん!扉を叩くが中から反応がない。まさかとは思うがもしものこともある。
手遅れになったらそれこそ大変だ。扉をぶち破るのは簡単だが、それは俺が疑われる恐れが
あるため別の手段を用いることにした。あたりを見回すと人間大の一匹のカエルが飛び跳ねている。
「おい、てめぇ・・・」
「ひぃぃぃぃ!俺はなにもしらねぇ!」
「この扉をあけろ。」
「そ、そんなことしたらなゆ様に・・・」
うーらうらうらうらうらうらうらうらうらうるあ!
「ばげばぶ、ばげばぶがら(あけます、あけますから)」
ぼこぼこになったケロタンは口からかぎをだし、なかに入っていった。
「こ、これは・・・」
そこにあったのは棺だった。この中で眠っているのだろうか。にしてもこれじゃあ目覚ましの
意味がない気もする・・・
「・・・(なゆ様、こいつをぶっ殺してやって下せぇ・・・)」
後ろからのぞきこむ俺を尻目に棺をゆっくりとあけていくケロタン。
棺をあけ終わった瞬間、そこに入っていたのはケロタンの人形だった。
押さえようのない恐怖が俺を襲う。なぜなゆなゆを起こす程度でこれほどまでの恐怖を
感じなくてはならないのだ。ここはやばい。俺は窓を開け放ち、そこから飛び立った。
「ものすごい殺気だった。あそこにいれば確実にやられていただろう。」
俺があたりを見回すと町はすでに夕暮れに染まっていた。
「そうか・・・奴は夜起きるために目覚ましをかけていたのか!!」
町を全力疾走する俺の背後にぴたりとついてくる奴がいる。このスピードについてこれる奴は
なゆなゆ!
「そんなに怖がらなくてもいいじゃぁない。」
俺は路地裏に迷い込み追い詰められていた。
「君と友達になりたいんだよ。」
そのとき、無我夢中で能力を発動させていた。
「殴りかかるほどびびらなくてもいいじゃない・・・」
そしてなゆなゆが差し出したものは・・・
ゆきうさぎ
「私の気持ち、受け取って・・・」
なぜか声が遠い。遠くからしゃべってるように聞こえる。いや事実遠くから
しゃべっているのだろう。はるか、上空から!
俺は思った。次に奴を見たとき、俺はプッツンするだろう。と。
「ブッつぶれろぉぉぉぉぉぉ!!」
ぷつん。予告どおり俺の中で何かが切れた。
「うーらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうら」
「なーゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆ」
完。
学校の転入手続きも済ませなゆなゆと帰路についた俺は家への道を体を縮こませながら
歩いていった。
「ゼロワン。私、商店街によってくけどなんかほしいものある?」
んー、ここはいっぱつかましてみるか。俺は思い立ったが吉日。即断即決。
猪突猛進なのだ。
「男がどきどきするようなものがほしい。」
「うん、わかったよ。」
たったったった・・・と走り去っていくなゆなゆ。俺は一抹の不安を覚え、
能力を発現させた。
「時は止まる。」
俺は走っていくなゆなゆを追いかけた。だが一向に距離は縮まらない。
「ゼロワン!追いかけているなッ!」
急に振り向き指をびしっとさされる。そして人が変わったようにぺらぺらとしゃべり始めた。
「ふ、ゼロワンといえど我が血筋。時の世界への入門を果たしていてもおかしくはない、か。」
「なゆなゆ・・・いったい何を買ってこようとしたんだ?」
俺はおそるおそる聞く。案の定、いや、予想以上の答えが返ってきた。
「決まっているだろうがッ!ファーストクラスにコアグラを出すように、
ゼロワン、貴様にトマトジュースを買ってきてやるのだ!」
トランス状態に陥ったなゆなゆに何を言っても無駄らしい。
「貴様ごときはトマトジュースで十分だ!本物の赤い液体は私がすするとしよう・・・」
あたりを見回すとすでに日が暮れようとしていた。
「まずいッ!このパターンはッ!」
俺はその場から猛ダッシュで離れる。なんということだ。なゆなゆの時間がきてしまった。
「だが、ここで逃げれば夕飯を食いそびれる!それぐらいなら戦って死んだほうがましだ!」
俺は急遽引き返し、なゆなゆの姿を探した。夢中になって走っていると、明らかに
怪しいローブのようなものをすっぽりとかぶった奴がいる。俺は躊躇なくそいつに
攻撃を食らわした。俺の渾身の一撃を受け、その場に倒れ付す少女。
紛れもなくなゆなゆではない。あたりの視線が痛い。俺は通りすがりの暴行魔として
通報されてしまうだろう。この状況を打破する方法はひとつしかない。
「おいおい、あれぐらいで気絶するなよ。冗談わかんねぇやつだなぁ。
仕方ない、家まで運んでいくか。」
あたりに良く聞こえるように大きな声でいったつもりだがあたりの視線は冷たい。
さっさとこいつを連れて行くことにしよう。
「大きなおで・・・じゃなくて生きのいい生き血だね。」
玄関まで迎えにきたなゆなゆが唖然としながら見つめている。
「たべ・・・・吸うの?」
「吸うか!」
なんだ、とがっくりうなだれたなゆなゆは二階へとあがっていった。
すこしずれている(ずれすぎている)ところはあるが、今はまだまともな状態のようだ。
「さて、こいつをどうするか。」
考える時間もなく、玄関から外に放り投げる。
「この・・・ド畜生がッ!」
背後からの強烈な蹴りを浴び、もんどりうって倒れてしまう。
蹴りの主はもちろんなゆなゆだ。
「なんてひどいことするの。こんなところで死んだらもったいないよ。」
あの弧・・・じゃなくてあの子の人生が。とあとに続くことを祈ろう。
「あの子の血が。」
俺はまだまだ浅はかだったようだ。
「ああ、すきにしてくれ・・・」
さっきの蹴りでかかとが亜空間に吹っ飛ばされなくなり、あばらが何本か折れて内臓に突き刺さったが
大丈夫、気合で乗り切れる。俺は二階へとあがっていった。
俺が仮眠から目を覚ましたとき、すでに12時を回っていたころだった。
なゆなゆが覚醒している時間だ。(そのため奴は朝弱いのだ)
今日もまた誰かの生き血をすすりにいったのだろうか?俺はあえてその事実を
確認することなく冷蔵庫へと向かった。
そこにはすでに先客がいた。そうか、さすがになゆなゆもトマトジュースで
我慢する気になったのか。殺るならいましかない・・・俺は能力を発現させ
奴の背後へと回りこんだ。そして、渾身の力をこめて、こぶしを振り下ろした。
「私を殺そうとした時のその殺気、すばらしいものだ。」
俺は全身から噴出す汗によりあたりの湿度を上昇させていることに気がついた。
そしてなゆなゆは何事もなかったかのように、
「期待しているぞ。奴らを、始末してくるのだ。」
カン・・・トマトジュースの空き缶をテーブルにおいて二階へとあがっていった。
「奴はいつ、俺の背後にまわったんだ・・・!?」
俺は力なくその場に座り込むことしかできなかった。
腹も膨れたので寝るために自分の部屋に戻ろうと上を見上げると、
案の定なゆなゆが指を指していた。
「すべて計算済みだッ!」
「てめぇ・・」
その手には昨日拾ってきた少女がつかまれていた。
ドキュ、ドキュ、ぽい。
「しぼりカスだッ!」
その死体を弾き飛ばし俺は階段を駆け上がる。
「ああ、ひとついっておこう。私に忠誠をつくす気が
あるのならその階段は上らないことだ。」
「ふざけたことを・・・」
俺は階段に罠でも仕掛けてあるのかと用心して一歩を踏み出した。
なんの変哲もない。ただの階段だ。俺はすこしずつなゆなゆに近づいていった。
おかしい・・・一行に近づくことができない。階段を上っているはずなのに。
「ふふん、このなゆ様に近づこうなどと10年はやい。」
「なんだこの階段はぁ!?」
俺は階段を一気に駆け上がった。だがその瞬間を見計らって、
まるでそうこさせるためにこのような手の込んだことを
したかのように思えてきた。なゆなゆの顔が見えなくなる。
「ULYYYYYY!脱出不可能ォォォォ」
「上からくるぞぉ!気をつけろぉ!」
ゆきうさぎ。
「うーらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうら」
「なーゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆ」
完。
ぐー・・・ぐー・・・
俺が早めの睡眠をとっているとふと扉の前に人の気配を感じる。
ぎぃぃぃぃ・・・・
「さてと、世界の頂点に立つものはほんのちっぽけな恐怖をも持たぬものだ。
完全なるとどめを刺してやろう。」
俺がすでに気づいているとも知らずに歩み寄ってくる。
射程距離まであと数歩、近づいたとき奴は歩みを止めた。
「念には念を押しておくか。まず、いびき・・・」
「ぐがアアアアア、ぐがあああああ!」
俺はわざとらしく、大きくいびきをかいた。(ふりをした)
「ふむ、かいているな。次は寝言・・・」
「うらうらー、裁くのは・・・・」
またもやわざとらしく寝言をいう。
「ふむ、いっているな。次は寝相・・・」
ウラウラウラウラウラウラ!俺は心の中で叫びながらあたりのものを
破壊しまくった。
「ふむ、十分悪いな。」
疲れる・・・なんだってこんなことしなくちゃならんのだ。
「このヴァタァナイフで貴様の首をいただくとするか・・・」
てくてくてく・・・世界の頂点に立つものとしては普通の歩く音だが
この際気にしてはいられない。俺は、カッ!とめを見開き、
力の限りの攻撃を見舞った。
「おまえ、寝巻きできて恥ずかしくないのか?」
「半纏だよ。」
「半纏だろうがなんだろうが寝巻きだろうが!」
どうやらなゆなゆは俺のことを異性として認識していないようだ。
「当たり前だろうが!このゴミムシがッ!
貴様などほんのちっぽけな恐怖にも値しない!」
またいつものくせが始まった。日が出ていればまともなんだが
(それでもかなりずれているが)今はおあいにく夜だ。
なんで夜に俺の部屋に訪れたかというと石仮面についての研究を記した
ノートを借りたのだが学院に忘れてきてしまったのだ。
「あれがないと研究がすすまないよー。どうしてくれるんだよー。」
「わかった。おまえを学院まで投げ飛ばして万事解決しろというんだな?」
数分後、俺は学院に向かって走っていた。
このくそ寒い中を走るはめになるとは。ちなみにさきほどの結末はいうまでも
ないが。
「この、ド畜生がッ!」
と、蹴り飛ばされいかざるを得なくなってしまったのだ。
だが、突如目の前に一人の少女が現れ道を阻む。
「ふははははッ!計算ずくよォッ!」
なゆなゆは下にあるゆきを素手でつかんでいる。
バカなッ!常人では、つめたいっ、といって決してさわれないはずの
ゆきをつかむとは・・・・
「やはり名○には雪というわけだッ!」
わけのわからないことをいいながらゆきうさぎを作ろうとしている。
俺は手早くそれを破壊し、先を急いだ。
「あ、ひどいよー。ぜろわんー。くー・・・」
あまりに活発に活動したせいで行動力がなくなったようだ。
奴のことだから死ぬようなことはないと思うが。
俺が学院から石仮面の研究についてまとめたノートを取って戻ってくると
案の定、というかお決まりのパターンが俺を襲った。
「王暗殺だッ!」
数十本のナイフ(バターナイフだが)の雨をかいくぐり、俺は帰路についた。
「わ、ほんとに取ってきてくれたんだ。ありがとう。」
「おかげで死にそうになったぜ。」
もちろん寒さで死にそうになったのではないが・・・
なゆなゆから礼を言われることは金輪際なさそうだ、と心の中でだけ
思っておく。
「朝ー、朝だよー。にっくきゼロワン殺して学校いくよー。」
・・・なんて目覚ましだ。俺は胸くそ悪くなり目覚ましを破壊する。
「さて、朝飯くって学校いくか・・・」
俺が廊下にでると同時にとなりの扉が開く。
「くー・・・」
朝はさすがに弱いらしい。俺は無視し、下へと降りていった。
「おはようございます、秋・・・トミさん。」
俺は一瞬言葉に詰まった。俺の知ってる姿とはあまりにかけ離れてしまっているからだ。
人間、7年もたつとこうも老けるものなのだろうか?
トミは突然ギラリとにらみつけると台所にあった西瓜を指で貫く。
とたんに腕が膨れ上がる。まるで西瓜の中身を腕からすいとっているかのように。
ドキュッ、ドキュッ、ぽい。
「しぼりッカスだ!」
ゴミ箱に入った西瓜を一瞥すると、ようやく俺に向き直った。
「朝御飯ですね。今用意してますよ、ひっひっひっひっひ・・・・」
あんたは魔女か。俺は内心つっこみながらテーブルについた。
ドタンドタン!グシャ!
とてつもない音が後ろでしていたが気にはしない。なゆなゆが階段から滑り落ちて
脳味噌ぶちまけたんだろう。案の定顔面血だらけにしながらなゆなゆが机の上に座る。
そのまま丸くなる。貴様は猫かッ!俺は能力を発現させ、首根っこをつかみいすに座らせる。
「くー・・・・」
それでも寝ている。とてもいい根性をしている。
「おやおや、また寝てますね、ゼロワンさん、起こしてもらえます?」
台所で壺(!?)の中身をぐつぐつとかき混ぜながらトミさんが命令してきやがる。
そういえばトミさんはいったいいくつなのだろうか・・・永遠の謎だな。
とりあえずなゆなゆを起こさないと俺の命に関わる。トミさんは自分の思い通りにならないと
体液とお茶を混ぜ合わせた液体をあたりにまき散らすのだ。これでなんど動物が天然記念物したか
わかったものではない。そうなっては俺も寝起きが悪い。仕方ない、オペレーション1だ。
「まず、このたばこの灰を・・・」
じゅっ、じゅっ、なゆなゆに軽く振りかける。少しむずがゆそうだ。吸血鬼というのは
温度を下げて波紋を封じることができると聞いた。逆に温度をあげてみてはどうだろうか、と
考えたんだが。皮膚が焼けただれた部分がもうすでに再生している。効果なし、か。
仕方ない。洗脳作戦しかない。
「ほぉら、いきのいい生き血があるぞぉ。」
「生き血ー、生き血ー。」
反応している。手応えありと見た。俺はそのまま洗脳を続ける。
「朝一番絞りの生き血すって学校いくよー。」
ズブリ。なゆなゆは俺の胸に手を突き刺し、そこから血をすすっていく。順調だ。
心なしか俺の意識が遠のいてきているような気がするが気合いで乗り切れる。
「ゼロワンさん、なゆなゆ、朝食ですよ。」
俺は目の前にだされたそのみるもおぞましい異形の物から目を背けた。
「URYYYYYYY!」
トミの背後から現れた謎の物体により顔を固定される。
「好き嫌いしちゃだめだよ。」
なゆなゆも非難の視線を浴びせている。ざけんな。
俺はどうみても猫の活け作りにしかみえないそれを能力で消し去り、その場から脱出した。
通学途中、追いついたなゆなゆの非難の視線がいたい。
「ゼロワン、逃げたでしょ。」
「お前はあれ食ってきたのか?」
「・・・・」
沈黙があたりを支配する。まるで時が止まったかのように。そこに響く一つの擬音。
「げっぷ。」
俺がその場から猛ダッシュで逃げ出したのはいうまでもない。
校門付近で同級生とあう。なゆなゆに血を吸われて吸血鬼化した人間第一号と俺は
勝手に決めている。
「ゼロワン君、なゆなゆは?」
「ああ、あいつは猫食ってる。」
俺は当たり障りのないことをいったつもりだが相手の気にかかってしまったようだ。
「ええ?嘘でしょう?」
「いや、本当だぞ。今朝だって猫の活け作りを・・・」
俺が言い切る前にあたりが暗くなった。つまり、光を遮られているということになる。
光を遮るようなでかい物体が上にある、ということを指す。それはなにか?
「嘘教えないで。」
平然とゆきうさぎの上から飛び降りるなゆなゆを特に誰も不審に思わず登校していく。
俺がゆきうさぎからすぽりと顔をだし反論する。
「お前今朝の朝飯、あれ以外なかったじゃないか!なのになんでげっぷがでるんだ!」
「・・・あ、チャイムなったよ。だっしゅ。」
なゆなゆは妙に前傾姿勢のまま獲物を求めて学校にはいっていった。
「ぜんっぜんチャイムなんて聞こえないぞ!まてぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!」
俺はゆきうさぎから抜けだしなゆなゆを追った。
「ふう、なんとか遅刻は免れたか。」
俺はドカッと席に付き、あたりを見回す。なゆなゆが相変わらず眠そうにしている。
このままじゃ欠席扱いにされかねない。俺は親切心からデコピンをかましてやることにした。
だが、俺がまさにそれを放とうとした時、
「貴様、見ているなッ!」
びしっと指をさされる。チェックメイト・・・じゃなくてクラスメイトの視線が痛い。
さっきの声はなゆなゆから想像できないらしく、俺がいったことになってしまった。
こうして無情にも出席確認はすぎていく・・・
俺は昼休みになるととある場所へと向かおうとした。その肩をがしっとつかまれる。
そこから体温が奪われていく。こ、これは・・・気化冷凍法!
「ゼロワンんんんんんん!私を差し置いてどこへいくつもりだッ!」
「い、いや昼飯を買いにいくだけ・・・」
ぱっと肩がはなされる。右肩の感覚がなくなっているが気合いで乗り切ろうと思った。
「ぢゃあ、私の分もお願いね。Xランチ。」
「Aランチじゃな・・・」
ずびゅ!俺は喉に風穴をあけられその場でもんどり打つ。すばやくクレイジーダイアモンドで
修復しようとする。だが俺は気づいた。自分で自分は修復できねぇ!
「ふふふふふふ・・・ゼロワンよ、貴様は殺すには惜しいスタンド使いだ。」
「あががががが・・・・」
ひゅーひゅーいってるぞ・・・
「我が血を浴びて蘇れぃ!ヴァニラアイスを買ってくるのだ!」
「よう、舞。」
俺と舞の出会いはほんの数日前だった。俺がなゆなゆに頼まれて学院に石仮面のレポートを
取りに行った時、彼女はすでにそこで何かをしていた。夜の学校にあまりに不似合いな、
剣という名の凶器をもって。そして俺の問いかけにこう応えた。
「私は、魔物を食う・・・狩るものだから。」
そんな半分信じられないような出来事があってから何かと俺は舞につきまとっていた。
「・・・・・」
感情を露わにしない舞。俺に一瞥くれるとすたすたといってしまう。
そこで現れたのがおそらく舞の親友(?)と思われるサ○リさんだ。
「あははー、これからいっしょにお昼でもどうですか?」
こんな調子で誘われ俺はそれから昼をいつもいっしょに食っているというわけだ。
「ほほう、説明ありがとう。つまりゼロワンは私に抜け駆けで不倫している、というわけだな?」
後ろになゆなゆがたっているが振り向いてはいけない。俺は猛然とその場からダッシュし、
一気に階段を駆け上がる。が・・・!!!?奴はすでに階段の上にいるではないか!?
「また、このパターンかよ・・・!?」
「うん、ブッ潰れろォォォォォ!」
俺はそれをさっとかわすと階段をかけのぼっていった。
授業もすべて終わり帰宅しようとしているとなゆなゆが近づいてくる。
まるで警戒もせず、間合いを詰めてくる。そう、これは上位の動物が怖くないよ、といって
わざと噛ませるのと同じだ。俺はそれに恐怖した。
「最強とはな、実はなにもできないことなのではないか、と思ったりするのだ。
勝って当たり前の戦いが何度も続く、それはとても退屈だ、とかな。」
俺は本能的に身構えた。奴が上位に位置する理由はなんだ・・・?腕力?
それはないといえる。何か特別な能力があるとしかいえない。
「お前もかつて相手の力を調べようともせずかかってきた者を倒したことがあるだろう?
つまりは、そういう奴は馬鹿だ、ということだ。その点お前は一つ目のハードルは越えた。」
さらに歩みよってくる。俺の目から敵のウィークポイントが割り出される。そこに正確に
攻撃を放つ。・・・だが、あたる直前でなゆなゆの体がわずかに横にずれているのだ。
なんどやっても同じ結果だった・・・わずかにズレがある。正確無比のはずなのに・・・
「ばかな・・・あの距離でよけれるはずが・・・!?」
「ふふふふふ・・・世界というのはな、見る者が見れば、歯車でできているのだよ。」
こいつ、完全にあっちに逝ってしまっている。目が覚めるまで守りに徹した方がよさそうだ。
「私はある日、それを指で止めてみた。すると、どうだ?周りの者の動きが止まるじゃあないか。」
がくがくがくがくがくがく・・・・!!俺は膝のふるえが止まらなかった。
「さぁ、私を楽しませてくれ。」
俺は、無我夢中でその場から逃げ出した。
「商店街にいくんだよ。」
なゆが俺にいってくる。(ついに略された)
「なんで?」
「朝約束したから。」
「誰が?」
「ゼロワンが。」
「誰と?」
俺はいってしまってからやばい、と思ったが時すでに遅し、なゆの鉄拳がすっ飛んできた。
「このなゆ様とだッ!」
ぺっ、口の中ににじみ出た血を吐き捨てると俺達は玄関へと向かった。
「じゃあ私は買い物してるからここで待っててね。」
「ああ。」
俺は素直にその場で待つことしばらく、後ろからものすごい波動を感じた。
「この波動は・・・新手のスタンド使いか!?」
振り向いた瞬間・・・どごぉ!ど派手にぶつかる。だが俺はただでぶつかってやるほど
お人好しではない。つっこんできた相手の勢いと俺の能力の拳撃を足したボディーブローを
見舞ってやった。
「うぐぅ・・・痛いよぉ・・・」
とてつもなく痛そうだ。でも鼻をさすっている。腹に決めたはずなんだが。
「悪いな、いつも命をねらわれてる時のくせで攻撃しちまった。」
俺は一応理由を話した。もっともこれで許されるわけもないんだが。
「てめーは僕を怒らせた・・・」
ぴくっ。何かすごい心に引っかかるがこちらが悪いといえば悪いので
あまり攻勢にでれない。ガキは立ち上がりこっちを見据えてくる。
だが俺の後ろから猛然とつっこんでくるなにかを確認し、その瞳が怯えの色を持つ。
「あっ・・・話はあと!とにかくここから逃げないと!」
「新手のスタンド使いかッ!?」
俺はいわれるままについていく。というかひっぱられていく。
商店街に群がる人をなぎ倒しながら突き進む。
「はぁはぁ・・・ここまでくれば・・・大丈夫・・・」
ここまでやれば、の間違いのような気もするが。俺らの周りにはうめき声をあげる人の
群ができあがっている。全員たつことができないので特に害はないが良心にちくりと響く。
「で、どうして追われてるんだ?」
もうその追っ手もこの中でうめいてるかもしれないが・・・
「たいやき、食べる?」
いって差し出されたたいやき。ちょうど小腹がすいていたのでありがたくもらうことにする。
「もぐもぐ・・・・で・・・?」
「たいやきを買ったんだけど・・・」
ごくり。俺が口の中のたいやきを飲み込んだのを見計らってしゃべり始める。
「お金がなくて店番はり倒して奪ってきちゃったんだ・・・」
「もぐもぐ・・・ごくん。ふーん・・・ウラッ!」
悪人は生かしてはおけない。正義感の強い俺はたいやきを食い終わると同時に鉄拳を放つ。
だが、信じられないことにその拳は見事に受け止められてしまった。
「あ・・・このパンチは・・・」
「てめぇ・・・こっちに越してきてこのパンチを受け止められたのはお前で二人目だぜ・・・」
一人目はもちろんなゆだ。トミさんも止められそうだがそんな恐れ多いことできるわけない。
「引っ越してきた・・・?」
「ああ、つい最近な。」
「もしかしてずっと前ここらで武者修行してなかった・・・?」
ガキがわけのわからないことを聞いてくる。そういうこともあったが・・・
「ああ、あったぞ。確かその時はまだラッシュが
完璧じゃなくてどっかのガキンチョに不覚をとったなぁ・・・」
そう、それは10年前のことだった。いや7年前のことだったかな。
俺は自らを鍛えるという名目でこの地にいる若尾トミさんを訪ねていたのだ。
そのときの兄(姉?)弟子にあたるのがなゆだ。あの時はこれほどまでに俺に敵意を抱いては
いなかったのにどこですれ違ってしまったんだろうか・・・
「僕はあゆ あゆだよ!ゼロワンくん!」
「あゆあゆ・・・お前、あの時の・・!」
ばっ!あゆあゆが拳を握りしめ飛びかかってくる。俺はとっさにそれをかわす。
背後の木がバキバキと音を立ておれてしまう。
「ゼロワンくんが避けた・・・!避けた~!!」
くっ、昔の俺は回避が苦手だという事実を知っているだけにまさか避けられると
思っていなかったのだろう。
「いきなり襲いかかられるのにはなれてるんだ・・・いろいろあって。」
「襲いかかってないよ。感動の再会シーンだよ!」
メキメキ・・・クシャアアアアア!背後の木が倒れきる。
この威力をもってして襲いかかっていないというのか・・・
と同時にあたりが急に暗くなる。
「あれ、なんだか急に日が落ちたね。」
「違う・・・いいか。上を向くな。いっきに走れ!」
俺はあゆあゆの手をとって走り始めた。ぷちゅる。その手が途中でほどける。
なぜほどけたか。理由は簡単だ。ゆきうさぎにあゆあゆが押しつぶされたからだ。
前にもみた、この光景。このあと俺は・・・
「ふっふっふ・・・ゼロワン・・・貴様は殺すには惜しいスタンド使いだ。」
「てめぇ・・・」
俺は目の前が真っ白になり、無我夢中で飛びかかっていた。
家に帰るとトミさんが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。」
「ただいま。トミさん。」
俺は軽く挨拶を済ませる。
「それじゃあ晩御飯の用意をしましょう。」
「御師さん。私も手伝うよ。」
御師さんって・・・わかっちゃいたが養子だったか・・・俺は踏み入れてはいけない領域の
ような気がしてそれ以上のことを考えるのをやめた。
「ぐえ・・・なんとか食えた・・・」
今回のはまともに食えるものだったのでなんとか胃に収めることができたのだが、
たいやきを食っていたのであまり腹が減っていない。そういう日にかぎって大量にでるのだ。
世の中うまくいかないものだ。俺はそのまま深い眠りについた。
カノンリベンジ -1-END