カノンリベンジ -3-
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その日は私にとってとても大切な日になるはずでした。
彼女が夜の学校で剣の修行を密かに行っていることは親のコネで
学校にしかけた超小型ビデオカメラで知っていました。
私・・・佐祐理は決めました。私のためにもあの子と一緒に幸せになろうと。
私は夜の校舎へあるものをもって向かっていました。これを彼女に渡したら
どんな顔をするだろう?そんなことを想像するだけで楽しくなってきます。
きっと彼女の事だから何気ない顔で「ありがとう。」としかいわない。
けれど佐祐理は知っています。彼女の内にある誰にも負けない優しさを。
誰よりも繊細な心を。その日は、本当に大切な日になるはずでした。
「ゼロワンッ!起きているなッ!」
どがッ!ドアをぶち破られ俺は飛び起きた。なゆが覚醒モードにはいってる。
深夜だ。近所のことなど考えたこともないのだろう。
「何の用だよ・・・」
「昨日学校で貸した究極生命体のノート、返してもらいたいんだけど・・・」
急にまともになると不気味だぞ・・・
ノート、ノートね。俺はおき勉の常習犯だ。もちろんノートなど
持ち帰るはずもない。
「悪い、学校だ。」
「えー、ひどいよー。あれがないとふくしゅうできないよー。くー・・・」
そこまでいってなゆはそのまま寝始める。俺はふくしゅうとはどっちの
意味だろうか、と考える。よしておこう・・・・
とりあえずなゆを廊下に投げ捨てようと近寄った瞬間・・・
「これは・・・ゼロワンのグラディウス!」
あと数歩というところで俺の波動に感づかれてしまった。こうなったら・・・
「くらぇぇぇェェェェ!半径2Mグラディウスマグナムッ!」
「さみー・・・」また俺はノートをとりにいくはめになってしまった。
そういえば以前にも同じ状況があったな・・・あの時は確か・・・
「ふはははははは!計算づくよぉぉぉぉ!」
上から迫る異形の物体。このパターンあきたぞ・・・・
俺はふってきたゆきうさぎをかわし先を急ぐ。だいたい俺を追いかけて
邪魔するぐらいなら自分で取りにいけってんだ。まったく。
その時俺はまだ、これから起こるであろう惨劇など予想だにしなかった。
(いつも惨劇なんて起こりまくってるしな・・・)
「よぉ、舞。」
「・・・・・」
剣を構えたまま微動だにしない舞。どうやらただの屍のようだ。
「屍じゃない・・・」
反応したか。まぁどうでもいい。とりあえずノートを探さなくちゃな・・・
俺は教室へと向かった。薄暗い廊下は不気味で舞のいう魔物も本当に
でそうだった。というかなゆは魔物じゃないのか・・・?
俺はそこまで考えて背中に悪寒が走った。まさか、なゆは毎日のように
学校に忘れ物をして取りに来ている。特に夜の奴は血に飢えている。
その犠牲者を舞が独自に調べ上げ犯人を突き止めていたとしたら・・・?
舞のいう魔物とは・・・
以前、こんなことを聞いた。
「ゼロワンがいると・・・魔物がでやすい。」
「俺は囮か!」
教室からノートをとって外にでる。先ほどの廊下には舞が微動だにせず
たたずんでいた。俺はついさきほど浮かび上がった疑問をぶつける。
「なあ、お前のいう魔物って・・・」
「・・・きた。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
俺の周りの背景に文字のエフェクトが流れる。
「飛んで。」
俺は無我夢中でそこから飛び退いた。その瞬間そこの地面がえぐれる。
「この異様な殺気は・・・あそこにとどまっていたら間違いなくやられていた・・・!」
「次、くる。」
こんな時でも冷静でいられる舞が少しうらやましかった。
が、そんな事を思っていられるほど魔物の攻撃は半端じゃなかった。
「ふっふっふ・・・いくら逃げても無駄、無駄、無駄だよ。」
「やばい、ここはいったん退こう!」
だが舞はがんとせず立ち向かおうとする。
「魔物に背を向けることは、できない。」
舞の剣がその暗がりにいた魔物を斬りつける。だがその剣の動きがぴたりと
止まってしまった。
「貧弱ゥ、貧弱ゥ!このなゆ様は触れた物の温度を自在に操れるのだ!」
「・・・!」
なゆの肩口に半分突き刺さった剣がそのままそこに凍り付いていくではないか!
そしてその氷は舞の手のすぐそこまで迫っていた!
「舞!はなせ!」
俺のとっさの呼びかけにすばやく剣をはなす舞。だが獲物を失ってこの化け物を
倒せるのだろうか・・・?
「くくく・・・むぅ?新手のカノンリベンジャーか!?」
なゆの目が俺達の遙か後方を凝視する。その目から放たれる一閃の輝き。
窓ガラスを突き破り壁をぶち抜き、そして・・・
次の瞬間、血だまりの中に倒れる佐祐理さんがいた。
背中にぬいぐるみを背負って。そのぬいぐるみが血をすって足下を赤く染め上げていた。
その光景はまるで奴が人から血を吸い出すかのような・・・凄惨で、非常識で、残酷な
光景。普段の俺ならここでプッツンしていただろう。だが・・・今目の前で死に耐えようと
しているのは知り合いだ。あってまだ間もなかったが、それでも俺は・・・
「見捨てる事は、できない。」
病院の地下・・・一人の少女が全裸でカプセルのような物に入っている。
首に二つの風穴があいて見る者がみたらそれは死体のホルマリン漬けのように
見える。だが見る者がみれば、禁断の領域へと踏み出す狂気の儀式。
本人が望む、望まざるを関係なしに・・・
「大丈夫なんでしょうか?」
研究員の一人が男にいう。この男こそ佐祐理の父であり、そして
娘を失う恐怖に耐えきれなかった男である。
「大丈夫か・・・だと?」
男は研究員を殴り飛ばした。派手にぶっとぶ研究員。
「貴様らの仕事は私の指示通りに動くことだけだ!お前らは機械だ!
感情をもたぬ機械となれ!なれぬものは・・・・」
つかつか・・・
歩み寄り、パンッと軽い音が響いた。
「処理しておけ。」
「はい。」
無機質な黒いコートに身を包んだ男達に運ばれる研究員。
そこは、沈黙と非常識が支配する世界。
幾時間がすぎたのだろうか?しばらくそこの研究員達はのまず食わずで
働いている。これが彼らに課せられた仕事なのだ。法外の報酬のかわり、
命を削って作業を行う。そしてこの作業はまさに人の道をはずれる作業であった。
死んだ人間を蘇らすなどと・・・
だが、常に世界には裏表が存在するように医学にも同じく裏表が存在する。
太古の昔より受け継がれてきた血。その血を体内に宿した者は絶対なる力を得ると
いうが、その代償は精神。正気と狂気の狭間を揺れ動く宿命を背負う。がどんな力を宿しても
一度体組織が死に絶えもはや腐っていく状態であるものに生を与えることができるのだろうか?
やってみなくてはわからない。佐祐理の父は、そんな子供のような理屈で押し進めていた。
金のある者の発言はどのようにばかげていても重くとられる。そして彼もまた
その一人である。
ボコッ!
突如、沈黙が打ち破られる。息を、しているのだ。死んだはずの人間が・・・
そしてみるみる血のめぐりを感じさせる肌へと再生していく。あいていた風穴も
いつの間にかふさがっていた。男は膝をがくがくとならし、驚喜に打ちふるえていた。
ピキッ!ガシャン!
ザー、という音とともに水槽の培養液が流れ出す。そして人の形をとっているものは
辺りを見回す。するとすぐに父親が駆け寄ってくる。
「おお・・・佐祐理、よかった・・・本当によかった・・・」
父親が流す涙。それをみても彼女はなんとも思わなかった。そして無機質に、
聞く者がきけば(それは父親のみが該当する)優しい声音で問いかける。
「佐祐理は、蘇ったのですか?」
「ああ、そうだとも・・・本当によかった・・・・今服を持ってこさせるからな・・」
父親は全裸ということに気づき後ろを向いた。だがそれが命取りとなった。
いや、どちらにせよ、そこにいた生命、また物としての形をとるものは消えていく事に
なるのだからこの表現はあまり正しくない。
佐祐理の手が背後から父親の頭をつかみあげる。細い腕で自分より背の高い男を
片手で持ち上げている。父親は突然の出来事に抵抗すらできなかった。
「ぐあああ・・・・佐祐理・・・なにを・・・」
「あなたは、佐祐理の弟が死んだ時、見捨てました。
佐祐理は傷つきました。こいつはメチャ許せんよなぁ・・・・と!!」
男の断末魔とともに頭部を失いその場に崩れ落ちる。
「そして、お金の事にしか頭にない貴方達も、佐祐理は心をこめてこういいます。」
研究員達は我先にと逃げ出していた。そんなこと佐祐理にはまったく関係ないように
言葉をつむぎだす。
「この、ド低俗野郎どもがッ!」
その瞬間、病院の地下室が落盤をおこし、研究員その他をすべて生き埋めにしてしまった。
かくいう佐祐理はいつのまにか地上へとあがっている。
「佐祐理は決めました。私のためにあの吸血鬼をブチ殺そう、と。」
連続戦闘経過時間10時間。というのは正しくないかもしれない。
お互い朝まで殺りあっていたのだがなにぶん朝日がでるとなゆはふつうの性格に戻る。
それぞれ学校の教室にいないと遅刻になってしまうのでとりあえず教室へと向かい
爆睡する俺となゆ。舞も佐祐理を病院へ送ったあと戦いにしばし参加していたが
自分の教室へと戻っていった。
「ねぇ、ゼロワン君。なゆ、起きなさいよ。もうお昼よ?」
見た目は派手だが性格が地味ななゆの親友に起こされる。
「なゆ、昼飯食いにいくぞ。」
「うくー・・・眠い・・・」
眠ったまま器用についてくるあたりなれっこという奴なのか。
俺らは食堂で昼飯をとったあとすぐ教室へ戻り再び爆睡する。
午後の授業をすべて睡眠に費やした俺らは何事なかったかのように
帰路へとついた。なにか忘れてる気がするが、まぁいい。
と、校門へさしかかったときまぁよくないと思う人間が待ちかまえていた。
「あいたかったぞォォォォォ!」
「佐、佐祐理さん・・・?」
俺は面くらって一歩後退する。なゆも耳に手をあて「誰?」と聞いてくる。
「ゼロワンさん、佐祐理にそのド低俗吸血鬼をブチ殺させてくれませんか?」
いってる台詞がきれてるぞ・・・いまのなゆはまともな状態だからなぁ・・・
「また、次の機会でってことで・・・」
「ふぇー・・・?んじゃなんですか?ゼロワンさんは佐祐理にたてつく、と?」
猛然とダッシュしてくる、というか滑ってくる佐祐理さん。あまりのスピードと、
突然の攻撃で反撃できず俺はそのまま壁際まで運ばれたたきつけられる。
そしてそのまま押さえつたまま、尋問される。
「あははー、遅いんですね。んではもう一度聞きます。
佐祐理にそのド低俗吸血鬼をブチ殺させてくれませんか?」
いってなゆの方を指さす・・・・はずがすでにそこにはなゆはいなかった。
「あははー、佐祐理はちょっとおバカでした。」
ドゴッ!壁に俺の体をめり込ませすたすたとそこから去っていく。
「あの、圧倒的パワーはなんだ・・・!?」
俺は壁に埋まりながら考えたが一向に答えは見つからなかった。
当たり前だな・・・あの奥ゆかしい佐祐理さんがなぜこんな凶悪な力を身につけたか
なんてわかるわけがない。ただ、あの時・・・俺からみたら致命傷だった傷が
まったくなくなっていた、それだけだ・・・
「ゼロワン、さっきの人、誰?」
さきに帰っていたなゆが聞いてくる。まぁ妥当な質問だな・・・
「お前に恨みをもつ人間だ。」
「ええー?私に?恨まれるようなことした覚えないよー・・・」
本気でそういっているあたり今は正常らしい。
「月のない夜は気をつけろよ。」
「うん、返り討ちにするよ。」
・・・すこし、ずれてる、かな。
その後、俺は珍しく何事もなく寝ることができた。
「おはようございます。ゼロワンさん、ド低俗吸血鬼。」
俺らが恐る恐る振り向くとそこにはにこやかに笑う佐祐理さんがいた。
なゆが明らかに不審人物を見る目で佐祐理さんのほうをみる。
「あ、ああ。おはよう。なぁ、何も朝っぱらから殺り合わなくても・・・」
「いえいえ、お手間はとらせませんよ。佐祐理は魔法を覚えてきました。」
俺となゆの頭に?が浮かんだことはいうまでもない。以前、
’佐祐理はちょっとおバカな普通の女の子です’といっていたが、ちょっとどころじゃない。
「ふぇー・・・その目は信じてませんね?」
勝手に話を進めていくさゆり。(もはやさんと呼ぶ気力すらなくなった・・・)
背中から一本の棒のようなものを取り出す。
「ぴろりろりーん!マジカルステッキーーーー!」
どらえもんののりで自分で効果音と名称を叫んでいる。通学している周りの
生徒から視線を浴びまくる。もう嫌だよ・・・・
「あははー、それじゃあ魔法をお見せしますよ。」
ボゴォ!一瞬右腕が極端に膨れ上がったかと思うとそのステッキを下から上へと
振り上げた。その瞬間、地面を目に見えるような烈風がほとばしる・・・!
「まじかる☆ウェーブ☆」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁあああああ!!!!」
その地を裂く烈風が俺の体を切り刻んだ。地面がえぐれながら進んでくる風って
どうやったら起こせるんだ・・・そうか、これが魔法なのか・・・!
「ふぇー、斬りすぎちゃいました。」
ぜんっぜん申し訳なさそうじゃないんですけど・・・俺は体中傷だらけになりながら
その場から後ずさる。だがもちろん見逃してもらえるはずはない。
「次の魔法いきますよー。」
ああ、俺ここで死ぬのかな・・・だいたいなんで俺が魔法くらわなくちゃいけないんだ・・・!
なゆにくらわせろや。俺があたりを見回すと案の定、そこにはなゆの姿を確認することが
できなかった。
「あのくそったれ吸血鬼はどこへいきました?」
さゆりは猛然と俺の襟首をつかみ壁に押しつける。ああ、またこれかよ・・・
「俺が、知るか・・・」
「じゃあ、死んでください。」
ドゴォ!強烈なボディブローとともに俺は壁の中にめりこんだ。
そしてステッキをしまうとすたすたと歩いていく。一枚の紙切れをわざとらしく
落としながら・・・
「へへへ・・・直前で防いどいたおかげでなんとか耐えられた・・・か。」
俺はとっさに能力を発動させガードをした。だが、次の瞬間・・・
ブシュ、シャアアァアアアアアア!
ガードした右手のひらが裂け鮮血が飛び出す。どうやら衝撃に耐えきれなかったらしい。
俺は雪を真っ赤に染め上げながらその紙切れをひろう、そこには恐ろしい事がかいてあった。
「放課後、迎えにあがります。」
俺は膝が笑いまともに歩くことすらできなかったが根性で学校へと向かった。
「ゼロワンさーん、いますかー?」
ちなみに掃除当番をしている最中だ。無視するか・・・だがすでにクラスに波紋が
広がっている。あんた、目立ちすぎや・・・
「ゼロワンンンンン!誰だ!あの人は!」
級友がつかみかかってくるのを素早く回避し、廊下へと抜け出す。
「あははー、やかましいクラスですね。」
やかましくしたのはあんたが原因だ、と心の中で思っていたがあえて口にはださない。
「で、なんの用だ?さゆり・・・さん。」
すごい抵抗がある・・・もはや尊敬できる人ではないからな・・・俺は正直者なのだ。
「ド低俗吸血鬼をブチ殺しにきました。もちろん参加ですよね?
学校での思い出はたくさん作らないと。舞と私とゼロワンさんの3人で。」
「いや、俺吸血鬼の殺し方わからないし・・・・」
「大丈夫。佐祐理が用具用意します。」
なんだか俺はこの場から離れたくなってきたぞ・・・
「あ、俺掃除あるから・・・」
ピト・・・・冷たい棒の感触が首にあたる。恐る恐るそれをみるとステッキだ。
「ふぇー・・・佐祐理より掃除の方が大切なんですか・・・」
「あ、あああぁぁぁああぁぁあ・・・・・!」
俺は恐怖で動転し声を上げることすらままならない。そのステッキが突如喉元に
食い込む。息が詰まりもんどりうって倒れてしまう。
「げはっ!ぜー・・・ぜー・・・」
肩で息をしながら呼吸を整える。
「どうです?魔法の味は?」
俺はやっと理解した。魔法なんてもんじゃない。さゆりの怪力から繰り出される
力任せの技にすぎなかった。衝撃波もさっきの攻撃も。
「じゃあ、明日決行ですから。」
いいたいことだけいうとすたすたと歩いていってしまう。金のある者というのは
えてしてそういう存在なのかもしれない。
「ゼロワン、大丈夫?」
なゆが不審人物を見送るまなざしでさゆりの後ろ姿をみつめている。
途中、ぴたりと立ち止まりこちらを・・・なゆの方を一瞥したあと、
また歩いていく。その時の表情をとなりを通りがかった生徒が後にこう語る。
「あれは悪魔の笑みだ。」と。
どこから、壊れてしまったんだろうか・・・そしていつになったらこの壊れた
世界から抜け出せるんだろうか。
そして日にちが変わり出す。俺はその強い意思で学校へと向かう。
今日は放課後、なゆを血祭りにあげるためのパーティーが開かれる、らしい。
パーティーとかいってどうせ俺達がなゆのところに突っ込んでいくだけなんだろうが。
俺はその日の授業など耳に入らなかった。今隣に殺すべき相手がいるのだ。
入るほうがおかしい。そして運命の時はやってきた。俺はすばやく教室から飛び出た。
「うげッ!」
ドアを開け放ち廊下にダッシュしようとした俺の首に棒状のものが引っかかる。
本気で走っていたのでいささか息がつまってしまう。俺がゼーハーやっていると
見下すように立っているさゆりがいた。
「そんなに急がなくても佐祐理はゼロワンさんを置いていったりしませんんよ。」
一応好意的に理解してくれたようだ。俺の寿命がのびた・・・・
「ははっ・・いや楽しみでさ。」
「あははー。愚民の見え透いた嘘なんてばればれですよー。」
俺は首根っこつかまれずるずると引きずられていった。向かう先はいつも昼飯をくっていた
屋上前の踊り場。そこに剣を準備している舞も待っていた。
「とりあえず家にあったあなた達ごときに十分なものをもってきました。
あ、返さなくていいですよ。平民からお金なんてとりませんから。」
といって渡されたのがタキシード。舞にはドレス。これをどうしろというのか・・・
「今日実は放課後舞踏会があるんです。知ってましたか?」
「いや、まったく。」
「知らない。」
俺らがそっけなく返すと「これだから凡人は・・・」とさゆりは頭をたれた。
「その特別ゲストとしてド低俗吸血鬼を呼んであります。」
「・・・」
なんとなく嫌な予感がする・・・さゆりはそこでにっこりと笑って、
「ゼロワンさんと舞にはきゃつを暗殺してもらいます。」
もちろん断ることはできない。断れば俺が撲殺されてしまうだろう。
そして準備の整った俺らは体育館へと向かった。そこですでになゆなゆが招待されている
はずだ。俺の胸の鼓動が高鳴る。今日、決着がつくんだろうか・・・?
体育館に近づくにつれそれは大きくなる。だがおかしい。優雅な音楽は流れている。
明かりも漏れている。下足もある。だがそれらにくらべて圧倒的に感じない。人の放つ生命の脈動を。
「あははー、ちょっと遅すぎました。」
「まさか・・・」
「・・・くる。」
俺がドアを開け放った瞬間、数十本のナイフが突っ込んできた。俺はかろうじて身をかわす。
が、背後にいて油断しまくりのさゆりにはかわす時間は、ない。
「愚民がッ!」
さゆりはかわそうともせずステッキを押し出した。その瞬間あたりの窓ガラスがすべて割れる。
そして俺のタキシードに一閃の切れ目がはいり、そこから熱いものがながれてきた。
向かってきたナイフはさゆりの圧倒的パワーによって分子レベルまで分解され
その分子の飛沫が俺やあたりにいるものを切り裂いていた。舞はそれがすでにわかっていたらしく
物陰に隠れている。俺が扉の前で痛がっているとさゆりがつかつかとあるいてきた。
やさしい一言でもかけてくれるのだろうか?
「どけよ、バカ。」
期待した俺がバカだったようだ。本当にバカだ。俺達は、単なる引き立て役に連れてこられたのだ。
本来のパワーをもってすれば一人でも十分、というより次元が違いすぎて足手まといにすぎない。
(かばってくれることはないだろうからそれすらも当てはまらないが)
一人で照明だけがかろうじて残っている体育館の中に踏み込んでいくさゆり。
俺にはそれを止めることはできないしする意思もない、だがついていくことはできた。
中を見渡すとそこには死屍の山ができあがっていた。すべて血を抜かれている。
それをみてぴたりと歩みが止まる。そして急に笑い出す。
「この日を待ちわびたゾォォォォ!」
こいつもなゆなゆと一緒だ・・・いや、もっと先までいっている。ならばより狂っている方が勝つ!
だがさっきから一向になゆの姿がみえない。いったいどこに隠れているのだろうか?
ピンポンパンポーン。この情景に似つかわしくないふざけた放送が流れる。
もちろん声の主は・・・
「フハハハハッ!このなゆ様を落とし入れようとしたらしいが
地上最強の生物と化した私にこのような小細工が通用すると思ったか!」
「ヤロウ・・・」
なゆなゆは一応女だぞ・・・。
そんなことも露知らずさゆりが拳を握り締めステッキを思いっきり地面に振り下ろした。
もちろん、一瞬で体育館の床が割れたのはいうまでもないが真におそろしいのはそれが巻き起こす
風圧。真空の刃があたりのものを破壊する。それはおいてあったテーブルや椅子やら飾りやらを
めちゃくちゃにし、よりいっそう荒らされたという印象を強めるのに十分だった。
「ふぇー、なんだか疲れちゃいました。今日はもう帰りましょう。」
俺はその言葉を聞き救われる思いだったというのはいうまでもない。
いや、いったら殺される。俺はいつのまにかいなくなっていた舞を無視し帰路についた。
一方、先刻の放送室・・・
なゆと舞が格闘している。すでに舞はなゆなゆを狩るべく勝負をしかけていた。
舞の刀がなゆの肩に食い込む。そこから吹き出る血。舞はこの前の二の舞にならぬよう
剣をすぐ引き抜きすばやく突きを繰り返す。
ビュッ!ビュッ!ビュッ!
あたりに血が飛び散る。もちろん戦っている当人達はそんなこと気にはしていないし、
そこにドアの隙間からひっそりと一部だけ除いて誤解している(誤解でもないのだが)
見学者がいることなど微塵も気づきはしなかった。そして次の日、体育館の惨劇について
重要な証言として「舞が放送室で女生徒を剣で突き刺していた」ということなどまったく
予測できなかった。誰しもがその事実と体育館の惨劇を結び付けたくなる。
すべてはさゆりの思惑通りであった。
「にやそ」
カノンリベンジ -3-END