カノンリベンジ -5-
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最弱とは一番弱いことではない。もしこの世でもっとも弱い存在なら
存在することすらできない。つまるところ最弱とはすべてを捨て
この世に存在しえない存在のことである。
「ゼロワン、なに読んでるの?」
俺がやすみ時間を読書に費やしているととなりに座っている
吸血鬼、なゆなゆが邪魔してくる。
「・・・強さについての考察、おまえバカだからな。読んでもわかんねーよ。」
「私、頭悪いけどゼロワンを殺すくらいならできるよ。」
「・・・」
頭悪いといえば正反対の香里がいるではないか。奴は成績優秀なため、なゆなゆと
強制的に契約を結んでいるのだが最近みないな・・・俺は話題を変えるため
それとなく話をふることにした。
「おまえの下僕、香里はどうしたんだ?」
「今日休んでるね・・・どうしたんだろ・・・・」
俺はさして香里と親しいわけでもないがなんとなくまだこれない気がしていた。
「まだ、学校にはこれないかもな・・・」
気がつくとこんな思わせぶりな台詞をいってしまっていた。
「貴様・・・知っているなッ!」
ビシィとなゆなゆが指差すさきには俺しかいない。
恥ずかしいからやめろって・・・
「ゼロワン、お見舞いいくよー。」
「はっ?」
放課後、なぜか香里の家にお見舞いにいくことになった。
「死ぬには惜しいリベンジャーだ・・・私の顔をみてよみがえるがいいッ!」
ゼロワンに拒否権はないらしい。どうせ暇なのでついていくことにした。
昇降口から出るとどこかでみたようなぼろきれをまとった不審人物が
待ち構えている。ゼロワン達はそれを無視し先を急ごうとする。
が、それが命とりとなった。
「お命頂戴ッ!」
横を通り過ぎようとした瞬間、クラッカーヴォレイが顔をかすめた。
「ぐあぁぁぁぁ・・・」
「ふむ、額か・・・顔そのものをねらったんだけどな・・・・」
俺は額からたれる血によって視界を失ってしまう。だが能力のおかげで
相変わらず敵の感覚はつかめる。クラッカーヴォレイ、もとい鈴を放った
敵は心の中で、追い詰められたお前は私に何をみせてくれるの?などと
内心思っていたがそんなものそれこそ物語の中の特権であり、誰しもが
だせるものでもない。そしてゼロワンは能力を頼りに殴りかかる。
「ぐッ・・・」
今だゼロワンの傷は癒えていなかった。普通の生活を送るには
支障はないが、戦闘となると話は別である。その負担がもろに体にきて
その場にぶっ倒れてしまう。それを見下す相手。
この時点で勝負はついていた。だがその場にいたのは彼らだけではなく、
そして、そのもう一人は傍観者ではなく当事者であった。
「この女狐がァァァァァッ!すぺしゃる肉まんだッッ!」
ゼロワンの視界はなくなっていたが気配と言動からしてなゆなゆだ。
そしていまやつがとっている行動はロードローラー・・・!!ではなく
ゆきうさぎ・・・だが圧倒的に質量が違う・・・もっと小型だ。
血をぬぐい良く見てみると両手に肉まんを抱えていた。
「あうーっ!」
「女狐はキムラヤの肉まんに目がなくてな・・・」
なゆなゆの手からすぺしゃる肉まんを奪い取るとそれをほおばり始める。
もう一個の肉まんに指を突き刺しぐるぐる回しているとぱっとそれが消えてしまった。
「あ、それ私の・・・」
ふたつともぱくられ泣きそうになるなゆなゆ。
「おい、まさかこいつが俺たちの新しい仲間か?」
「その通りだ。名をまことという。」
「冗談じゃねぇぞ。たった今襲ってきたばっかじゃねぇか!」
「ふふん、お前の能力ではこいつにはかてん。」
「なんだと・・・・!」
俺はその台詞に多少怒りを覚える。がなゆなゆは冷静に能力の解説を始める。
「こいつは自分にとって都合のいい様々な奇跡を起こす。
シンプルな奴ほど強い。私の能力でも対抗できるかどうか・・・」
「ぜんぜんシンプルじゃないぞ・・・・」
ゼロワンの抗議の声はなゆなゆに届くことはなかった。
なぜなら・・・その場に強大な風が襲いかかったからだ。
その風は地面をえぐり下校途中の生徒を巻き上げ全身打撲においやる。
「何者だッ!」
「この広い校庭のどこから攻撃してきやがるッ!」
「あうーっ!」
ゼロワンが一歩歩く。するとその位置に正確に風が襲ってきた。
「どうやら、相手は俺らの足音に反応して攻撃してくるみてぇだ・・・」
だがその言葉の意味を理解していないかのようにまことはあちこち
歩きまわって攻撃されまくっている。それを懸命にかわすまこと。
だがちょうど飛んだ先の着地点に風が向かっていた。
それはゼロワンを狙っていたのだがこのままでは
巻き込まれてしまう。ゼロワンはそれをかわすため大きく跳びまことを
殴り飛ばそうとした。こうすれば軌道がずれ致命傷は免れる。
殴った方が痛いかもしれないが・・・
「ウラッ!」
だがまことはそれをひょいと空中でかわす。良く見ると
狐のような尻尾が2本生えていて絶えず回っている・・・
空中に浮遊しているまことはらくらく風をかわす。
「え・・?てことは・・・」
ゼロワンの着地点に風が迫ってきている。
「ああ、全身打撲決定か・・・?」
打ち上げられるゼロワンはそんなことを思いながらあたりを見回した。
するとなぜか空を浮遊している女狐がいるではないか。
「あうーっ!!」
がしっ。嫌がるまことをしっかりとつかみ、そのまま風の根源へと向かう。
そこには狂ったように烈風拳をはなつさゆりの姿があった。
「あははー、ド低俗女狐もきましたか。」
「てめぇ・・・」
ゼロワンはまことを蹴飛ばし反動で空中から突進する。
「ウラ、べぇッ!」
さゆりのオリハルコン製ステッキがヒットし派手に吹っ飛んでいくゼロワン。
「ふぇー、ちょっと強すぎました。さゆりは悲しいです。」
もっと殴れなくて・・・とあとに付け加えられるのはあきらかであった。
ゼロワンの吹っ飛んだ先は校門付近だ。
「ふぅ・・・計算ずくだぜ・・・」
「それ、私の台詞・・・」
校門の外でまっていたなゆなゆが突っ込んでいたがそんなものに
かまうほど元気はのこってはいなかった。
こうしてゼロワン達一行は香里の家へと向かうことになる・・・
商店街・・・
「ゼロワンくんっ!」
「新手の・・・ッ!」
「あーゆあゆあゆあゆあゆあゆあゆあゆあゆ」
「ウーラウラウラウラウラウラウラウラウラ」
台詞を言い終える暇もなくラッシュに付き合わされる。
「何者だッ!」
なゆなゆが明らかに不審人物をみる目でラッシュの相手を見る。
突然現れてラッシュ比べをしたらだれでも不審人物だと思うが・・・
「あうぅ・・・」
まことは肉まんを探してあちこちうろうろしている・・・
「正面きって出てくるとは・・・名を名乗りな・・・」
ゼロワンがガンをつけながらその相手に問う。
「ボクは月の暗示するスタンド使い、あゆあゆ!きみの命、もらいうけるよっ」
「たいした度胸だ、きなッ!」
「ゼロワン、時間・・・」
だがなゆなゆの言葉に耳を貸さず戦いはじめる二人。
「あっ、ボクおわれてるんだよっ」
悲壮な表情で突然あゆあゆが叫んだ。そして商店街を疾走しはじめる。
ゼロワンをつれて。
「俺をまきこむなぁぁぁぁぁ!」
「くー・・・」
「あうぅ?」
一人と一匹はおのおのの暇つぶしをしていた。
香里の家の近く・・・
「ここのどこかに奴の館があるはずだ・・・」
「私も正確には知らないよ。」
お前ら本当に親友か・・・・
「ボク、探し物は不得意だよっ」
いつのまにかついてきたあゆあゆがあちこちきょろきょろしながらいう。
大方肉の芽でも植え込まれたんだろう。
「自慢にならねぇよ。」
とりあえず突っ込んでおく。
「あうぅぅぅぅぅ!」
もうすぐ夕暮れになろうという時間、あきらかに普通の家を発見する。
「このどす黒い瘴気は・・・・まちぎなくここだよっ。」
あゆあゆが別段なんの変哲もない家なのにキケンなことを口走っている。
「よし、二手に分かれて突入しよう。」
「なんで?」
俺の意見になゆなゆがつっかかる。
「お約束だから。」
「誰が?」
「俺たちが。」
「どうするの?」
「二手に分かれて突入するんだ。」
「なんで?」
「お約束だから。」
「あうぅー。」
「お前につっこみを期待したんだ。まこと。」
俺が玄関のチャイムを鳴らし、俺らは身構える。
だがそのチャイムこそ地獄へのスイッチだったのだ・・・!
「亜空間にぶちまいてやるッ」
突如インターホンから謎のメッセージが聞こえたかと思うと
目の前が暗転した。
そのスイッチは俺らを亜空間へといざなうための罠だったのだ。
「ここは・・・?」
俺らが飛ばされた先はただっぴろい部屋だった。
なぜか地面が円形にえぐれている。そのえぐれ方が異常だった・・・・
綺麗に丸くえぐれているのだ・・・こんなことをできるのは能力の使い手
以外いない。
「ゼロワン君・・・遅いわよ。」
その部屋にぼうっと浮かび上がるように現れたその声の主、それこそ
俺らが会いにきた香里本人だった。
「遅いもなにも会いにくる約束なんてしてないぞ。」
「・・・・」
香里はそれには答えず代わりに突然妙なことを言い出した。
「悪霊が、取り付いたみたいなの・・・」
「はっ?」
ゼロワンとなゆなゆの目が点になる。他2名は綺麗にえぐられた円を
なぞったりして遊んでいる・・・
「その悪霊は、私にはコントロールできない。あのときもそうだった・・・
私はそれを必死に止めようとしたけど駄目だった。この部屋の綺麗にえぐられたそれもその悪霊の仕業よ・・・・」
「・・・・」
俺は二の句が告げられなかった・・・・
「だからっ!私は学校へはいけないっ!」
そこにはいつも存在感があまりないクールな香里はいなかった。
そこにいるのは泣き崩れてゼロワンを叩いている(結構痛い)か弱い香里だ。
「なんのために・・・こんな能力があるの・・・?」
ちなみになゆなゆはすでに寝ていた・・・
「キミの悪霊の正体はうぐぅだよっ。」
さっきまで遊んでいたあゆあゆが割ってはいる。
「うぐぅ?」
「ボクのは遠隔操作型のうぐぅ。キミも中距離までなら届くみたい。」
「あゆあゆ・・・なにをいっているんだ・・・?」
いきなり熱弁しはじめたあゆあゆを止める術は俺にはなかった。
これで香里が学校に再びこれるようならそれでいいんだが・・・
「ゼロワンくんっ。この人をこの部屋から出せばいいんだねっ?」
「ああ、頼む。」
「少々手荒くなるけど・・・」
「かまわない。本気でやれ。でないとお前がやられる。」
「あなた達・・・」
香里がなにかいいたげだったがそれをあえて無視し、
あゆあゆが襲いかかる。香里もそれに反応して攻撃を繰り出すが・・・
「うぐぅはうぐぅでないと倒せないっ!」
わけのわからないことをいいながら香里の攻撃は効かず、
あゆあゆがラッシュを香里にかける。そのとき俺はみた。
香里の体から出現するどこか香里ににた容姿をもつ小柄な少女の姿を。
「そんなこと言う人嫌いですっ。」
「わわわっ!」
ボォ。体に火がつき転がりまわるあゆあゆ。
その少女が現れたとたん亜空間から家の前へと景色が移り変わる。
「その娘があの亜空間を作り出してたのか・・・」
「ゼロワンくんっ。あの人を部屋からだしたよっ。」
「まんまとしてやられたってわけね・・・。」
香里がいまいち納得しない顔であったがあのときのような
思いつめた顔ではなくなっていた。
「俺たちにこんな能力が備わった原因はなゆなゆにあるッ!」
俺はとなりで寝ているなゆなゆをビシィと指差す。
「そして俺たちはこいつと戦わなくてはならない宿命にあるッ!」
「嫌よ。」
きっぱりとそういう香里。それは、確かな拒絶・・・
そしてさっていくその後ろ姿を見て俺は・・・
見送ることしかできなかった。
俺らは商店街でばらばらになることにした。
「じゃあね。ボクのこと忘れないでよっ!」
「忘れられるようなキャラクターしてねぇぜ、食い逃げ娘っ!」
「その言葉、そのまま返すよ、変な男の子っ。」
俺とあゆあゆはぱしっと手を合わせたあと別れる。
「ゼロワン、お腹すいた・・・生き血すすってこ。」
「あうぅー。」
「生き血も肉まんも家に帰ってトミさんのあったかい料理まで我慢しろ。」
「うー、わかったよ・・・・」
「あうーっ。」
こうして俺らは珍しく無事家に帰宅することができた。
翌日・・・
まことにえさをやり俺は学校へと向かうことにする。
なゆなゆはまだ寝ているようだ。久しぶりに何事もなく登校することができる・・・
俺は通学途中襲われないかとびくびくしながらも無事校門前までやってきた。
「無事ついたか・・・珍しいな・・・」
だが俺のその安堵から生まれた一瞬の油断をそいつは狙っていたのだ。
「・・・ッ!!」
ドンッッッ!俺の背後に綺麗に穴があく。俺は振り返らずその場から跳躍する。
「嬉しくて攻撃しちゃいました。」
ジャンプの着地と同時に振り向いた俺の先にいたのは・・・顔も知らない女子だった。
「何者だッ!」
「そんなこという人嫌いですっ。」
その女生徒の台詞とともに灼熱の炎がほとばしる。この技・・どこかで・・・
「ゼロワン、遅刻するよ?」
後ろから走ってきたなゆなゆに忠告される。というか助けろ。
「はぁ・・・ゼロワン、ぜんぜんわかってないね・・・」
「なにが・・・」
「これもゼロワンのためだってこと。」
そういって先にいってしまうなゆなゆ。俺は校庭でそいつと対峙する。
「ゼロワンさん・・・」
「なんだ・・・」
「今日の昼、一緒に殺りあいませんか?」
「もちろんだ。」
俺も遅刻するよりかそっちの方がましだ。その申し出をうけ教室へと急いだ。
が少女がわかれ際に振り向く。
「私の名前はしおり・みさか、あだ名のピアニッシモと呼んでも結構ですよ。」
そういってしおりは教室へと向かっていった。
「なぁ香里、しおりって知ってるか?」
「ピアニッシモなんて知らないわ。」
俺の問いに即答する香里。
「ピアニッシモなんて一言もいってないんだがな・・・」
「・・・・」
こいつ、もしかしてバカなのか・・・・?案外単純な奴なのかもしれない。
「ゼロワン君。」
「なんだ。」
香里が神妙な面持ちで話し掛けてくる。
「ゼロワン君は・・・その娘のこと、怖いの?」
「多分、怖いんだと思う。」
「そう・・・」
聞きたいことだけ聞いてあとは黙秘。やるじゃねぇか・・・
だが運命の時間はやってきてしまう。
昼休みのチャイムがなったと同時に・・・
「ヴァニラアイスを食わせてやるッ!」
不可解な台詞とともに隣の香里の体から出現したのは紛れもなくしおりであった。
その時偶然廊下でなゆなゆを殺すチャンスをうかがっていたさゆりはそいつの顔をみて内心あせっていた。
げぇっ!最弱!ピアニッシモ・・・ここはいったんひかねばやられる・・・・
さゆりが人知れず撤退していたのその時、
それよりもあせったのはゼロワンである。急に香里の体から出現したそいつによって
空間を吹っ飛ばされる。
「空間そのものが・・・ッ」
その言葉に反応したかのようにスプーンをアイスにさすしおり。
「ゼロワンさん、世界というのは見るものがみれば無数のひび割れでできてるんですよ。」
「・・・」
ぱく。アイスをほおばりながら喋るピアニッシモ。
なんとなく想像はついたがあえていわない。
「私は死を乗り越えた際、それを見ることができるようになりました。」
「見るだけか・・?」
「はい。」
「・・・・」
俺は拍子抜けする。てっきり空間を操ることができるのかと思ったのに・・・
「ゼロワンさん、ところで最弱とは実はこの世に存在できないことだと思いませんか?」
なにをいってるんだ・・・こいつは。俺が読んでいた本の内容と同じことをいっている。
あの本はかなりマニア向けというか絶版のはず・・・世界で数名しかもっていないあの本を
なぜしおりがもっている・・・
「相手より勝ってはならず、常にその存在を消していなくてはならない。
つまりそれは死以外の何者でもないのではないか、と私は思うんですよ。」
「貴様、ただの変人ではないなっ!」
俺は吹っ飛ばされたときにうった背中が痛かったが痛みを押して立ちあがる。
しおりはゼロワンの机からノートを一枚破り取り、それにとんとんとん、と一定の
リズムで指を打ちつける。すると・・・
ゴォォォォ!爆炎とともに紙切れが燃える。そしてその燃えっかすをゼロワンに
投げつける。
「それがあなたが私と決着をつける道しるべになります。」
「なに・・・?」
「放課後、あの場所で。」
しおりはそういうとすたすたと自分の教室へと戻っていった。
ゼロワンはその後ろ姿を見送るとその燃えかすをゴミ箱に捨てる。
ぽい。
「どうしてそういうことするんですかっ!」
香里の体から出現したしおりに蹴飛ばされる。
なんとなくこいつの攻撃を食らうと両手しか残らなそうで怖い。
「いや、なんとなく・・・」
「私の些細な願いがこもってるんです・・・」
「わかったよ。じゃあ俺のちっぽけなプライドにかけて約束する。」
俺はばっくれるつもりだったのでちっぽけという言葉をわざわざつけたのだ。
だがしおりはいたく感動したようで気分上場といわんばかりに教室へ戻っていった。
「なぁ、香里。」
「時が止まるわけ・・・ないのにね・・・」
「まだなにもいってないんだが・・・」
「嫌よ。」
どう考えても香里をぶっ殺せばしおりも消える。が却下されてしまった。
大体血の契約を結んでいるなゆなゆがだまっちゃいねぇか・・・
結局俺はしおりを倒さなくちゃならないみたいだ・・・
放課後・・・
「あの場所って、どこだ・・・?」
ゼロワンは途方にくれていた。だが場所を正確に知らせなかった相手が
悪いと勝手にきめつけ帰路についていた。
一方しおり、いやピアニッシモは・・・
「ちっぽけなプライドだと・・・」
その場所で待つも一向に現れないゼロワン。
「あの帽子野郎・・・・!」
手にしていたスプーンをへし折ってしまうピアニッシモ。
「うそつき・・・・」
手当たり次第あたりのものを蒸発させたあとそう嘆くとその場を後にした。
彼女の能力とは空間の温度を操りあらゆる物を蒸発させてしまう。
空気と音の電子レンジだったのだ。
「それ私の台詞・・・」
ストーキングしていたなゆなゆがうそつきといったピアニッシモにたいしてそう突っ込んだのを
きけたものはいない。各々の思いを胸に秘め無事帰宅することに成功した。
「朝~、朝だよ~、日の光にたえて学校いくよ~。」
俺の耳元で目覚ましが鳴り響く。いつきいてもむかつく声だ。俺は拳を振りかざし
それを破壊しようとした。
「ウラ・・・まてよ・・・」
扉が少し開いていることに俺は気がついた。そしてそこから感じるこのドスぐろい気配は・・・
この事実に気づいたことが俺の命を救った。もし目覚ましをぶち壊そうものなら・・・
「このトンチキがぁぁぁぁぁぁ!」
と扉の外にいる人物が殴り込みをかけてくるに違いない。俺は目覚ましを止め、支度を
整え始めた。とたんに扉の外の気配はなくなる。朝、弱いんじゃなかったのか・・・?
俺はゲテモノ料理もそこそこに家をでた。ちょうど校門がみえてきたところだ。
たいていここらで誰かに襲われるからな。注意しなくては・・・
「燃えろォ!」
「ウラッ!」
ボォゥ!真横から放たれた炎を能力で消し去る。この炎を放った人物は・・・
げぇッ!ピ、ピアニッシモ・・・・!
「帽子野郎が・・・何が些細なプライドだ・・・・ッ!」
ま、まずい・・・こいつは組織でもその任務達成率の低さで有名だ。というか絶対に成功しない。
こんな奴相手にしてたらこっちの身がもたない。なんとか、この場を乗り切らねば・・・
「よ、よぉ、しおり。ところでどうして炎が出せるんだ?」
とりあえず話題を変えてみたりする。がピアニッシモはものの見事にのってくれた。
「実は・・・」
「実は・・・?」
ピアニッシモの顔が一瞬まじめになったのでどんな答えが返ってくるのか少し興味があった。
「某炎を出す男の能力を移植されたんです。」
「は?」
もっとすごい答えが返ってくるかと思っていたのに拍子抜けだ。そういう奴、俺の知ってるのに
ごまんといるぜ。
「なにか不満そうですね。」
「もっとすごいのがでてくるかと思ってたからな・・・」
「じゃあ、組織のモルモットにされて二人で脱走してきたっていうのはどうでしょう?」
「まんまじゃねぇか。」
俺は苦笑する。その時チャイムが校庭に鳴り響いた。
「じゃぁまたお昼休みに。」
「ああ。」
ドゥン!
俺は対なゆ戦のためにとっておいた飛行能力を使い窓をブチ破り教室へとはいる。
巨大な質量をもったものが時の止まった世界でふってこないか心配だったが大丈夫のようだ。
こうして遅刻を免れた俺は無事授業をうけることができた。
「ゼロワン、昼休みだよ。」
「いわれなくてもわかってるって。」
俺はなるべく平静を装って学食へと向かおうとした。
「今日は学食で食べるの?」
「ああ・・・」
「じゃあ・・・同行願おうかッ!」
なんでここで覚醒するのかわからないが学食へと向かうことにする。
「わ、席がいっぱいだよ。」
「その説明口調やめろよ。」
俺の脳が説明するから二度でまになる・・・見渡す限りの人、人、人。
こいつらを蹴散らしたら席が空くだろうか・・・
「蹴散らさない。」
「・・・」
もはやなにもいうまい。俺はなゆなゆに席を取っておくことを命じると
二人の注文を取りに向かった。
だが、俺はこれが思いもよらぬ結果を招くことになるとはおもいもしなかった。
なゆなゆはちょうど二つ席が空いているところをみつけ血の契約を交わし席を確保しようとしていた。
そのとき・・・・
ビィィィィン!その席にふれた瞬間謎の結界が広がりなゆなゆを包み込んでしまう。
「くらェェェェェェィィィ!雪だますぷらっしゅをッ!」
そしてそこめがけて無数の雪つぶてが突っ込んでくる。
「むぅッ!これは香里みさかのしおりんずレッドッ!」
なゆなゆはその雪つぶてをとっさの蹴りで弾き飛ばす。
「この結界からは逃れられないわよ、なゆ。」
「誰かと思えば裏切り者の香里みさかか。まずは貴様から始末してやろう。」
香里は瞬時にピアニッシモを召還し、自分は安全なところへ逃走する。
「みさかというのは私にとってゴキブリのような存在でな・・・」
なゆなゆは誰にいうでもなく一人つぶやく。
「このなゆ様の手によって絶滅される宿命にあるのだッ!」
「そんなこという人嫌いですっ!」
ゴォッ!爆炎が迫る。だがその炎はなゆなゆにあたることなくすり抜けてしまう。
「ピアニッシモ、私と違うタイプの能力者かッ!」
「くらぇぇぇぇい、なゆぅぅぅぅぅぅうううう!全長10M雪だるますぷらっしゅをッ!」
ピアニッシモをかいして香里の声が伝わる。なゆなゆはとっさに危険を感じ後ろに飛びのいた。
だがそれがこの戦いの終止符をうつことになってしまう。
後ろに飛びのいたその先にこそ猛吹雪が待ち構えていたのだ。
結果的にその吹雪の中に飛び込んでしまうなゆなゆ。そして・・・
「なゆなゆ、凍結した貴様にはもはやこの台詞は届いていないだろう。」
「・・・(ば、ばかな・・・こんなはずでは・・・・)」
香里が前に現れ、氷漬けのなゆなゆを見つめる。
「・・・(この事実を、ゼロワンに伝えなくては・・・ッ!)」
「そこでみていなさい。あなたの下僕たちが朽ちていく様を。」
香里はそこまでいうと恐らくゼロワンを探しにどこかへと歩いていこうとした。
だがその歩みが止まる。
「完全なるとどめをさしておこうかしら・・・」
ボゥ・・・ピアニッシモが現れ、その体がくるりと回転したかと思うと・・・
無数の隕石が飛来、その氷塊をこなごなに打ち砕いてしまった。
「奴は吸血鬼化しているから、念のためにんにくをあたりにばら撒くとしましょう・・・」
香里はあたりに学食で奪ってきたにんにくをばらまく。
なゆなゆ、死亡。
「にんにく、お待ちぃー。」
俺の前に立っている香里がなにやら大量のにんにくをもってどこかへ行くのを確認した
俺は自分の注文ができあがるのを待っていた。
「カレーとD(IO)ランチ、お待ちぃー。」
俺はその二つをもって妙にぽっかりとあいている席へと向かう。
「おーい、なゆ。もってきてやったぞ。」
なぜかあたりににんにくがばら撒いてある。あいつ、にんにく嫌いだったからなぁ。
俺はそこではじめて異変に気がついた。椅子の血の契約が終わっていないのだ。
奴はいつも自分の使う身の周りのものには「フハハハハハっ」といいながら血を浴びせ
その主人を認めさせるはず。そしてその行動にはまったくなんの意味もないことを俺は知っている。
良く見ると青っぽい髪の毛が数本落ちている。そしてその髪の毛が突然動いたかと思うと
突然突っ込んできた。俺はとっさに後ろにかわす。すると背後にしのんでいた(?)髪の毛が
首に刺さり激痛を覚える。
「これは・・・なゆなゆが残した最後のメッセージッ!」
なぜそうなるのかはあえて問いただしてはならない。
「攻撃を回避するとき後ろに飛んではいけない、そういうことかッ!」
「ゼロワン君、それがわかったからなんだというの?」
いつのまにかそこにたっていた香里が平然と話し掛けてくる。
「こいつはやばいぜッ!カレーが冷めちまう!いったん引くんだッ!」
俺は誰にいうまでもなくカレーをもって教室へと走った。
「フフフ・・・私が生きてたころにはあのような速さをもつものはいなかったが今は別。」
そういうと猛然とダッシュを始める香里。
ゼロワンは学食の人ごみをすんででかわしながら教室へと向かう。
対する香里は・・・
「しおりんずレッドォォォォ!」
あたりに発生する真空の刃がまわりを切り刻む。途中猫の首がきれ、ジュースにふたをしたり
某南斗水鳥拳もどきがおこったりしたが気にするようでもなく先を急ぐ。
「あぷぱっ」
「ぴぎゃっ」
地獄絵図とかした学食からなんとか脱出したゼロワン。その手にもつカレーはいまにも
冷めそうだ。
「まずい、食べごろの時間がきてしまったッ!」
ちょうど、熱くもなくぬるくもない温度になったことをゼロワンは気づいた。
だがその時、ゼロワンの中で二つの意思が交錯していた。
「食べごろなのに教室まで走っていられるかッ。いまここでカレーをたいらげてやるぜ。」
「いや、だめだ。教室までいって落ち着いて食べないと危険だっ。」
だがゼロワンは走りながら食うという荒行をなしていた。
「食べごろだから食う。教室までも走る。これでいいだろ。」
ふたつの意思を統合し見事なまでのくいっぷりをみせるゼロワン。そしてたどり着いた教室。
そこに何事もなく座っている香里。
「計算ずくよ。」
「くぅ・・・さすが秀才。」
香里は手にしていたD(IO)ランチをゼロワンの見ている前で食べて見せた。
「てめぇ・・・・こんな光景みせられて、プッツンくるなってのが無理があるぜ・・・」
なぜならゼロワンはなゆから金を受け取っていないのだ。おいてきたゼロワンが悪いという説もあるが、
わざわざもってきてゼロワンの見ている前で食って見せるというそのひねくれた根性。
これはぷっつんこないはずがなかった。
「おかわりといきましょうかっ!」
香里がゼロワンのもっているカレーめがけて猛然とダッシュしてくる。
ゼロワンにしてみたらまだ半分以上残っているカレーをみすみす渡す理由はなかった。
「てめぇがもういっかいおかわりしたら俺はぷっつんくるだろうぜ・・・」
カレーの攻防をしながらも着実に押されていくゼロワン。まだ食べきっていないため空腹を
しのげないのは歴然だった。このままではいつかカレーを奪われてしまう。
「もはやお代わり可能ッ!」
シュパッ!一瞬のすきをついてそのカレーを奪う香里。
「クイッパグレロヨォォォォォォ!」
香里が勝ち誇ったかのようにそう言い放ちスプーンでカレーを口に運ぶ。
だが、その香里の手元にはカレーは存在しなかった。
「お代わりした瞬間にこっちがお代わりするってのは、水中で息継ぎしようと
出てきたところをもういちど水中に引きずり込まれる、ってことなんじゃねぇか?」
ゼロワンは冷静にカレーを食べている。食べごろを少し逸してしまったが、
食えないレベルではない。
「俺のお代わりの原因はそう、たったひとつの単純明快な答え、俺は腹が減りすぎた。」
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ゼロワンは掛け声とともにいっきにカレーを食い終わるとその食器を学食へと戻しにいこうとした。
なんとなく気になって振り返ると呆然自失とした香里がこう嘆いた。
「ばかな・・・この私が・・・ッ!」
「それ、私の台詞・・・」
窓の外からのぞいていたなゆなゆが突っ込みを入れる。
「なゆ、あんた死んだんじゃ・・・」
「不死人、だよ。」
俺はなるべく視線をあわさずさりげなく出て行こうとする、が呼び止められる。
「私のDランチは?」
「ああ、そこにある皿がそうだ。」
「なんだと・・・・・ッ!?」
なゆなゆの顔が豹変する。俺は攻撃される前に付け加えておいた。
「香里が食ったんだ。さらに俺のカレーまで食おうとしやがった。」
「貴様・・・ただの大食いではないなッ!」
「人が食えないから大食いっていうのよ・・・」
URYYYYYYYYYYY!
背後で奇妙な悲鳴と掛け声、攻撃の応酬がしていた気がしたが
俺は無視し、食器をおきに学食へと向かっていった。
「食えるから大食いっていうんだ・・・」
そしてまた恐怖の昼休みが訪れてしまった。
「しおり、今日は放課後も殺しあわないか?」
「ゼロワンさんから誘ってくれるなんて珍しいですね。」
俺の目の前でバニラアイスを食いながらしゃべる少女。しおり、またのなをピアニッシモ。
さきほどまで学食内を暴れていたがアイスを買ったとたん静かになりやがった。
そしてさきほどの俺のその台詞を聞くと目を輝かせた。
「決闘ですねっ。」
「決闘じゃないけどな。」
「決闘、決闘。楽しみですっ。」
まったく俺のいうことなんざきいちゃいない。今回は確実に、殺る。だからこうして放課後さそったのだ。
そのため決闘場所になりそうなところすべてにトミさんを介して罠を張り巡らせておいてもらった。
スイッチひとつで幽霊だろうがなんだろうが消え去るらしい。
今回はしっかりと待ち合わせ場所を決め、しおりと別れる。
「決闘、か。」
俺はひとりそうつぶやくとその場を後にした。
「遅いですっ!」
ドンッッ!真空の刃があたりを綺麗に抉り取る。俺を不意打ちしようとしたわけではないようだ。
狙いがあさっての方角だし、単純に遅いことにたいする不満の表れだろう。
「よし、決闘の場所だがどこがいい?公平をきして俺の知っているところな。」
「じゃあ・・・ゼロワンさんの家がいいです?」
な、なに・・・そこまで罠がはってあるとはちょっと思えない、俺は悩んだ。
「俺を確実に殺せる自信があるのか・・・・?」
「・・・・・・さ、早くいきましょうっ。」
「質問に答えてねーぞ・・・」
なぜか先頭を歩くしおり。どうして俺の居候先を知っているんだ・・・・?
まずい、こいつはなにかを知っている・・・ッ!俺のより上位に立つなにかを握っているッ!
だが逃げるわけにもいかず、俺はそのままついていくことしかできなかった。
「お邪魔します・・・」
ドアをズタズタに切り刻み、いそいそと勝手にあがるしおり。
「お邪魔です。」
「・・・」
「ただいま、トミさん。」
「おかえりなさい、ゼロワンさん・・・・顔色が悪いわね。なにか心配事があるの?」
俺の胸中を察してかさりげなく話をふってくるトミさん。さすが年季が違う。
が、俺が答えるよりさきにしおりが口を開く。
「そんなことないですっ。心配事がないことがゼロワンさんの特徴ですから。」
「そう・・・てっきり・・・」
トミさんがこれ以上いうと罠の有無に感づかれる恐れがある。
俺はしおりを部屋へと押していった。
「ゼロワンさん、殺されそうになったら大声をあげてくださいね。」
「はい。」
「私って危険視されてるんですね・・・」
もちろんだ、と心の中でいっておく。そしてずかずかと部屋へあがりこみベッドに
承諾も得ず座るしおり。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
しおり、いやピアニッシモの顔がかすかに変わった。そう、この顔は戦うときの
一片の慈悲すらない冷徹の笑み。そして、今その笑みをみせるということは、罠を見破られた・・・!?
俺は部屋に入ったときから気づいていた。クローゼットから尻尾が飛び出していたのだ。
どうやらなにかしらの処置によりまことがそこから攻撃してくれるらしい、がバレバレだ・・・
「ゼロワンさん、どうやら私の見込み違いのようです。」
「・・・ッ!」
「最初から罠をはっていることには気づいてましたが
気づかないふりをしたらまんまとだまされちゃって・・・」
ピアニッシモがくすくすと笑いながらその手をとある方向へ向ける。
その方角は・・・・ッ!
エネルギー充填完了、発射3秒前、
「3、2、1・・・・」
ドギャァァァァァァァァン!!
「あはははは・・・・」
まことは満足したように自分の部屋へと戻っていった。
次の日、ゼロワンがリタイヤから復帰できていなかったらとどめをさされてしまうだろう。
なぜならその部屋にはゼロワンの両手しか残されていなかったのだから。
一方ピアニッシモは・・・
「この最弱と呼ばれたピアニッシモが・・・引くことになろうとは・・・・っ」
とっさに本体へと戻ったピアニッシモはあのエネルギーの奔流から逃れていたのだ。
だが撤退したはずなのにどこかすがすがしく、ゼロワンの家を見る。
「ふ、しばし最弱の称号、貴様にあずけておこうぞ。」
まるで最弱を目指すことが生きる道かのようにピアニッシモの顔は覇気に満ち溢れていた。
もちろん次の日にはゼロワンが何事もなく登校しているのはいうまでもない事実であった。
カノンリベンジ-5-END
エピローグ・ピアニッシモ
どれぐらいの月日がながれただろうか?あれからなんの変哲もない日々を幸せに生きてきた。
俺のまわりのキケンな存在はすべて排除できた。
季節は・・・雪が、輝かしい季節は・・・終わりを告げた。
季節は春。新しいクラスが発表されるため俺は学校へと向かっていた。
「・・・どこで発表してるんだ?」
俺があたりを見回していると小柄な女の子がはなしかけてくる。
「あのー・・・みなさん、どこで集まっているかわかりません?」
このストーリーで一般人が台詞をもつとは・・・すごいエピローグだ。
俺はそんなことを思いながら自分もわからないことをつげる。
「じゃあ、一緒に殺しあいましょう。」
俺は一瞬耳をうたがう。
「あ、まちがいです。一緒に探しましょう。」
「あ、ああ・・・・」
こいつ、普通じゃあない・・・
ほどなくしてクラスメートのかきだされた紙をみつけそれにみいる。
俺らはそこで別れそれぞれのクラスメートを確認することにした。
ほっ、なゆなゆとは別のクラスだ。これほどうれしいことはない。
「ゼロワン・・・見ているね・・・」
後ろに守護霊のようにたつなゆなゆ、俺の守護霊はすでにいるからそこに
たつのはやめろ。元気のない声がきこえたかと思うとすぐにきえさった。
俺は別段きにもとめず、もうひとり、さがさなくてはいけない人物がいた。
念入りに探す。
もっと念入りに探す。
「やっぱり、いないか・・・」
その紙にはしおり・みさかはかかれていなかったのだ。
念のため他の学年もみてみる。結果は同じ。
俺は体の奥底から湧き上がる歓喜を押さえきれず飛び跳ねた。
「おっしゃーーー!これで来年は安泰だーーーー!」
あたりから奇異の目でみられようと気にしてはいけない。
次の俺のクラスにはやばい人間はいまのところいないのだ。
俺が喜びを思いっきり表現していると突如後ろから先ほどの
女生徒が話し掛けてくる。
「さきほどはどうも。なにがそんなに嬉しいんですか?」
「いやぁ、しおり・みさかの存在が消えてたからさ、
あいつ、空間を渡ってくるから気がぬけねーんだよ。」
「ゼロワンさん、ちょっとその紙の左隅、みてくれません?」
そういって女生徒が指差すほうをみる。
そこは注意してみなければ特におかしくもなんともない。
だが、俺は気づいてしまったのだ。神経質になりすぎた。
ともいえなくはないが、そこだけ他の場所より空白がわずかに広い。
ワープロ原稿をそのまま印刷したのだ。そんなことありえない。
つまり・・・・
「空間ごと、抉り取られた・・・」
ドゥン!その場所が綺麗に円状に抉り取られる。
女生徒がとなりでつぶやく。俺と目が合う。
手を顔に近づけたかと思うとバリバリとその面を脱ぎ去る。
そこから現れた顔は、ピアニッシモその人だった。
まずい・・・!時を止めるタイミングがわからないッ!
最近のなまった俺の体では2秒が限界だ。反応しきれるかどうか・・・
攻撃は突然はじまっていた。ふわふわと空中にただよう炎が突然現れる。
俺はそれを守護霊で消そうと殴りかかる。スゥ・・・
「こいつ、俺が殴ったのが見えているのかッ!」
「いえ、違いますよ。ほら。」
その炎はピアニッシモがいうように殴った手を攻撃するわけでなく
関係のない方に漂っている。
「俺のおこした風にのって動いているってわけかッ!」
「気づくの早すぎですよっ。」
「今週号よんでたからなッ!」
俺はその打開策を考える。よーく考えてみると今週ってピンチに陥る週じゃ・・・
突然その炎が俺のほうにむかってきたかと思うと爆発した!
「ぐぁぁぁぁぁあああああああ!」
やはり・・・時を止めるタイミングがわからない・・・・!
「いえ、あれは油断しすぎだと思います。」
「だからてめぇはえらそーにいうなってイッテンダロォォォォォォ!」
今年こそ、決着をつける。