カノンリベンジ 
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エピローグ・なゆなゆ

いつまでも続くと思っていた平穏(?)な日々。
どこまでも広がると思っていた私の野望。
その思いは、ほんのちっぽけな障害で消えうせることになる。

「朝ッ!朝だよッ!」
今日の目覚ましは気合を入れてみた。いつものようにどのような
反応をするか楽しみにドアの外から様子をうかがう。私の能力を
もってすれば目覚ましの台詞を変えるなど些細なことにすぎない。
「やけに気合はいってんなぁ・・・」
その目覚ましに起こされた男、いとこのゼロワンがぶつぶついいながら
ベッドから這い出てくる。まずまず、といったところかな。

こんな日常がいつまでも続くと思っていた。



深い闇。俺はなぜか覚醒している自分に疑問を抱きながらもあたりを
見回した。そこには志なかばで果てているリベンジャーの姿があった。
あゆあゆは、本体の奇跡が起こらずある日、命日を迎え、
さゆりは、血の暴走を止められなくて、
まことは、能力の賞味期限がきれ力を維持できなくて、
しおりは、姉がちょろい精神だったため、
各々果てていった。ふと、気がつくと一人でいることが多くなっていた。
だが俺はこれがトミさんの策略であり、師匠である最後の試練だということを
わかるはずもなかった。

トミはゼロワンの力について大きな疑問を抱いていた。
「あの程度の力しかだせないのはおかしい・・・」
そこでトミは真の実力を見極めるため、ゼロワンをふるいにかけることに
したのだ。周りの奴らを消し、真の力を見極めた上でそれは有用か、
もしくは、危険がないかを判断するのだ。そのためには、なゆなゆすら
消さなくてはならなかった。トミはなゆなゆを自分の部屋に呼んだ。
「どうしたの?お師さん。」
「いえ、久しぶりに稽古をつけてあげようと思って。」
というとトミはなゆに目隠しを渡した。
「それをつけて戦いなさい。そして、
 この勝負に勝ったとき、あなたは免許皆伝よ。」
「うん、がんばるよ。」

なゆなゆの視界がなくなる。だが異常聴覚により殺気が後方より
くるのがわかる。それをすんででかわし、よけ際に回し蹴りを放つ。
だが確かにその場所にいた相手はなぜか自分の背後に回っていた。
そして無数の攻撃が体中くまなく駆け巡る。
「・・・ッ!」
相手は一体誰なんだろう・・・が、そんなことを考える余裕などない。
真正面、この気迫、どこかゼロワンを感じさせる気がした。
そして相手がとった行動は無数の拳撃によるラッシュ。
それに答えてなゆなゆもラッシュを放つ。
ガシィ!
強い・・・正直にそう思った。今まで戦ってきた誰よりも強かった。
このままじゃ、バラバラにされたあとガソリンをぶちまけられ、焼却され、
日の光にあて灰にされるまえに血を移植されて、誰かを復活させられて
しまう。それだけは避けなくてはならない。なゆなゆは体内の体液を
逆流させ、それを眼球に溜めこむ。数々の宿敵を葬りさった技・・・
「イントゥアイズ!」
「なにッ!」
ドギュゥゥゥゥン!
その時、イントゥアイズが映し出した未来は。

自らの手でお師さんを殺め、一人きりになってしまう自分。

その未来がみえていたとき、目から放たれる体液の奔流を自らの手で
止めようと目を覆った。だがサイクロップスのバイザーでもない限り、
それは止めることはできない。なゆなゆの手を貫いて、その先には、
確実に未来があった。
がくりと倒れふすトミ、体液の奔流がとまったと同時にその場に
崩れ落ちるなゆなゆ。涙は、だせなかった。



「朝・・・朝だよ・・・・」
めちゃくちゃ暗いぞ・・・俺は朝から気分が悪くなりながらも
居間へと降りていった。だがそこには誰もいなかった。
「あれ・・・トミさん・・・?」
すでに家に誰の気配もしなかった。どうやら俺をびっくりさせようと
みんなで隠れているようだ。俺はあたりの気配を探った。だが念入りに
隠れているらしくまったく見つからない。仕方ない。俺は恐らく
隠れそこなっているであろうなゆなゆの部屋にいき、吐かせることにした。
ドンドンドン。
「おーい、おきてるかぁ!?」
ああ、なんとかなぁ、などという返事は期待できない。ならば・・・
「ウラッ!」
バキャッ!
ドアを破壊し、中に入る。棺おけはしまったままだった。
「確かこれあけると自分がばらばらにされて
 棺おけにいれられちまうんだよな。だれかいねぇかな・・・」
などと探しても都合よく見つかるわけもなくとりあえず棺おけを破壊する。
ドゴォ!バキィ!メキャッ!
けたたましい騒音の中からでてきたのは目をかっと見開き、
虚空をみつめているなゆなゆだった。

「お、おい・・・・どうしたんだ?」
「ゼロワン・・・私・・・」
瞬きひとつしないその光景はかなり不気味だ。
「もう、戦えないよ。」
「何が、あったんだ・・・」
俺は恐る恐る聞いてみた。そして聞くんじゃなかったという後悔の念に
駆られることになる。
「いつもお師さんを超えようと努力してた・・・いつも一緒だった・・・
 でも、もうそのお師さんはすでに超えていて、存在しないんだよ・・・!」
俺はトミさんに勝てる自信はなかった。そしてそれをすでに超えていると
いっているなゆなゆにはもっと勝つ自信がなかった。
俺がなにもいえずに黙っているとなゆなゆはこういった。
「ねぇ、奇跡って、起こせる?」
だけど、俺はその問いには答えず別のことを考えていた。
弱弱しいなゆなゆをみて、不覚にも・・・・

ヤルナライマシカナイ、と思った。

「俺は、あの場所で待ってる。7年前、
 お前のゆきうさぎを破ったあの場所で・・・」
「私は・・・いけない・・・・」
「こなくても俺は待ってる。過去のしがらみを立ちきるためにな・・・」
「・・・・」
俺はそれだけ言い残すと家を後にした。あたりは曇っていた。
家の上には暗雲が立ち込めて、俺の向かう先はなぜか稲光が伴っていた。
最高にふさわしいシチュエーションだと思った。
俺はどかっとベンチに腰をおろし、目にみえた歯車を止める。
公園の時計が、俺の腕時計が、あたりの情景が止まる。
「この永遠の停止の世界から抜け出すにはここにくるしかない・・・」
すでに俺は5時間ほど時を止めつづけていた。だがなゆはこない。
「時の歯車に干渉できるものなら止まったということを認知できるはず・・・」

そして1日とめ続けた。

さすがにこれ以上とめると俺の体がもたない。俺は能力を解除した。

ヒュンヒュンヒュン!

時が動き出したと同時に四方八方から大量のヴァタァナイフが
突っ込んでくる!俺はそれの一部を拳撃でなぎ払う、がそこで俺は
自分の体がぴたりと固定されてしまうことに気がついた。

「時を止めたあとに時を止め返される気分っていうのは、水中で
 いきつぎしようと水面にでたのを引きずり込まれるような気分なんだろうね。」
「・・・ッ!(し、しまった・・・!)」
俺は年のために雑誌を心臓にしまっておいたがこのナイフは脳を狙っている。
「時を1日も止めるなんて、極悪人、だよ。」
そして再び時が動き出した。俺はとっさに頭をガードする。
両手にずぶずぶとナイフが突き刺さる。だが首を跳ねられなければ
平気という洋ゲーチックな設定により無事だ。
「くぅ!グラディ・・・」
俺はとっさに時を止め反撃に移ろうとした。だがあんなすきだらけの動き
誰が見ても反撃確定だ。なゆなゆの無数の拳撃が俺に迫る・・・
「しつこいよッ!なーゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆ
 なゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆ
 なゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆッ!」
「ば、ばかなァ!この、ゼロワンがァァァァ!」
「てめーは私を怒らせた・・・」

「それ、俺の・・・」「それ、私の・・・」
「台詞」

二人同時にそういうとこの戦いは幕を下ろした。
「私、頭悪いけど一生懸命考えたんだ。」
お互い傷だらけになりながら歩く帰り道。はたからみたらかなり異常だ。
「なにを?」
「ゼロワンごときじゃ奇跡なんて起こせないけど・・・」
そこで一呼吸おく。
「イチゴサンデー7つっ。これで手をうつよ。」
「いや、そんな目を輝かせて言われても何に対して手をうつのかわからないぞ。」
「私に奇跡を起こしてくれなかった代償。」
「・・・今は金欠なんだ、そしてこれからもずっと。」
「じゃあ、金欠じゃなくなったらいいんだね?」
「これからずっと金欠なんだぞ?」
「うにゅ・・・」
「だいたい奇跡を専門に起こす奴いるじゃねぇか。そういう系統脅迫しろよ。」
「あ、それは・・・・」
なゆなゆがしまった、というようなとぼけているのか笑っているのかわからない
左右非対称の顔をした。「あれは、つい最近のこと・・・」
私がゼロワンと一緒に帰らなかった日、一人の少女とあった。
その子は私を確認するなり突っ込んできて私にこういった。
「あ、な○きさん。」
突然私のことをなゆ○さんなんて呼ぶなんて失礼にもほどがある。
私は怒りを押さえながら勤めて明るくこういった。
「せめて、なゆちゃん、って呼んでね?あゆあゆくぅん。」
「じゃあボクもあゆちゃんでいいよ。」
「だまれ、貴様はあゆあゆだろうが。」
「んだと・・・・?じゃあテメェはなゆなゆだ。」
プッツン。
「私はなゆなゆだっていってんだろうがァァァァァァァ!」
無駄が嫌いな私は前にもいったことを反芻されプッツンきてしまった。そして一般人ごときに
ラッシュを浴びせてしまった。だが予想外の展開が起きたのだ。
「あーゆあゆあゆあゆあゆあゆあゆあゆあゆあゆ」
「なーゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆなゆ」
私のラッシュについてくるとは・・・こいつ、只者ではない。
ラッシュ負けした私ははるか後方へと吹き飛ばされた、しかしこれはその場から退避するための
自作自演、計算づくというやつだった。

「つまり・・・あゆあゆとは敵どうしだから奇跡は起こしてもらえない、と。」
「うん、その通りだよ。」
「自業自得。」
「うー・・・」
他愛のない話もあの激闘のあとなら疲れを癒すものになりえた。
くだらない話しに興じていると俺らはいつのまにか家の前についていた。 
俺は部屋に戻るとなにげなく目覚ましを鳴らしてみる。そこには。
いつものなゆなゆの間延びした台詞が録音されていた。
「朝~、朝だよ~」

白い雪に覆われる冬、ゆきうさぎの練習をし、
街中に桜の舞う春、無数の拳撃でその桜をすべてちらし、
静かな夏、時をどちらが多く止めていられるか競い、
目の覚めるような紅葉に囲まれた秋、本当に目がさめるかどうかためし、
そして・・・再び冬。
俺らは持ち前のマイペースでトミさん亡きあとものほほんと生活していた。
相変わらずなゆなゆのとろい行動は直らなく、朝もマイペースぶりを発揮している。
「いちごじゃむ、おいしい・・・」
「いちごじゃむ、おいしい・・・じゃねぇだろ!時間ねぇって!」
俺は一括するとトーストを殴り飛ばす。なゆなゆは悲しそうに
「極悪人、だよ。」と嘆いていた。
学校の帰り道。なゆなゆが話しかけてくる。
「やっぱりゆきうさぎの練習ができるのが冬が好きな理由だよ。」
「練習代になるほうの身にもなってくれ・・・」
俺が不満ばりばりの声をあげる。いつもならプッツンなゆを食らってもおかしくない。
だが予想に反してなゆなゆは悲しそうに、
「雪、嫌いだったよね・・・」
「誰かさんのせいで嫌いになったんだよ・・・」
「うにゅー。」
珍しく殴り合いにならない。恐らく、このような得体の知れない能力の使い手は
もはや俺しか生き残っていない。そう、トミさんはいないのだ。それがなゆなゆに
変化をもたらしたのかもしれない。前、孤独を恐れる姿を一度みている俺にはわかった。



そんな二人のやり取りを影からみつめる一人の老婆の姿、
ふとふりかえるなゆなゆ、だがそこには誰もいない。
「どうした・・・ッ?」
「いや、かすかだが今は亡きお師さんの気が感じられた・・・ッ」
「疲れてるんじゃないか?」
「でも、時計、止まってる・・・」
なゆなゆは本能的に時を止められていることに気づいて
その世界に入門していたのだ。だがまだ経験の浅いゼロワンには
その時を止めている張本人に気づく余裕はなかった。
そしてゼロワンが後方に気を取られている間に背後より忍び寄る影。
ヌゥゥゥゥン!
豪鬼ばりのエフェクトとともに体中に無数のラッシュを
食らい瞬殺されるゼロワン。
「我はラッシュをきわめし者ッ!
 うぬのそのふがいなきラッシュの弱さ、思い知るが良いッ!」
「おいおい、まじかよ、お師さん、まだ生きてたの?」
「吸血鬼たるもの心臓を貫かれたごときではしなんワッ!」
トミが勝ちほこったようにゼロワンを足蹴にする。
「じゃあ、あれは演技・・・!?この、極悪人がァァァァァ!」
怒り狂うなゆなゆ。俺は足蹴にされながらこう思っていた。
とっとと、この日常が終わりますように・・・

エピローグ・なゆなゆ・END